第2話




あれから数日後、とある事件が世間を騒がせていた。

加害者の家族や親族が経営していた闇営業の賭博場カジノ風俗ピンクのお店などが一斉に摘発されたというのだ。

そして未成年の少女たちが保護されたらしい。

半数以上が行方不明者リストに名を連ね、多数の未成年者が親や親族の借金や何やらを理由に無理やり働かされていた。

ピンクのお店で保護された少女たちの中には10歳以下の子が複数人いたことが、連日の騒ぎに拍車をかけている。


…………本当に未成年者を働かせていたことにビックリだよ。



そんなある日、とかいう人が家に押しかけてきた。

「加害者側と弁護士がもめている」というのだ。

「(弁護士が)加害者側の情報をもらしたと責められている」と。



「私はひと言も弁護士が脅したとは言っていません。『今日も学校に押しかけて来た』とは言いました。

それと親族ですか? そのお店の件は別です。あれは代理人という人の言葉です」



実は代理人って、会社の役員や秘書だったり弁護士だったりするみたい。

親族のお店を脅しの材料ネタに使った人は、その店を取り仕切っている代表の息子。

私の家族を全員殺したのに釈放された加害者のいとこ。

取り締まったときに捕まった顔を見て「ああ、コイツだ」って。

そのときの情報番組で「加害者のいとこだ」って言ってた。

……そりゃあ、詳しいハズだわ。



自称『弁護士の弁護士』はドアフォンで対応したけど、そのときの表情は傑作だった。

テレビでよくみる『(自称)イクメンのイケメン弁護士』だと思うけど、そんな人がぽっかーんと口を開いて固まった。

イクメンって言うけどさ、『自分の子供の世話をする』のは当然じゃないの?

なんでをした男は誉められて、24時間休みなく子供との世話をする女性は「当然」と言われるんだろう。



「編集された音声でも聞かされました?

ですが、金で解決しようとしたのは事実ですよ。

私の家族を殺して謝罪しないどころか

『ここで金を受け取らないと証拠を捏造して、煽り運転をしたのがお前の家族だと提出するぞ。

その結果、自滅して死んだことにも出来る。そうしたらお前なんか死体も残さずに殺されるぞ』

という脅迫を受けました」


「そんなはずはない」


「じゃあ、少しお待ちください」



ドアフォンを切って、スマホを片手に2階へ。

そして通りに面した窓を開けると、マスコミがチラホラ。



「でっはっっ!

弁護士が学校で!

私にした脅迫を!

録音していたので!

流しまーす!!!」


「待てっ、めろ!」


「えー?

たった今、『そんなはずはない』と言ったじゃないですか。

だから、ここにお集まりの皆さんに『弁護士の発言が脅迫かいなか』を判断してもらいまーす!」



似非エセイクメン自称イケメン弁護士が止めたけど、こ~んな美味しい情報ネタをマスコミがスルーするはずもなく。

脚立に乗って、ボイスレコーダーを持った腕を限界まで伸ばしている。

中には伸ばした自撮り棒にスマホをつけている人まで。

塀に乗らないのは、それが不法侵入になるからだ。


証拠は正しく広く、たくさんの人に届けなくちゃ、ね♪



私が最大音量で流した、学校で脅された言葉はマスコミ各社がスマホやボイスレコーダーに録音した。

個人で所有した秘密情報しょうこなど、所有者わたしを消してしまえば永久に失われるだろう。

しかし、たくさんのマスコミが同じ音声を所有していたら……?


そう、私を消すだけでは済まないのだ。



「おい……これって殺人予告じゃないか?」



誰かの声が2階の私にまで届いた。

それはだんだんと周囲に広がっていく。



「この声ってあの弁護士だろ?」


「ああ、『いままで一度も裁判に負けたことがない』と主張している……」


「裏でこうやって脅迫や殺人予告をして訴えを取り下げていたということか」



一度でも間違ったことをしてが公表されれば、正当な方法で無罪を勝ち取った裁判までもが疑われてしまう。



「弁護士さーん!

これでも『脅迫ではない』とぉ…………って、あれ?

ウチに乗り込んできた弁護士さんって?」



2階から周囲を見回しても、あの「あったまテッカテ~カ」の弁護士の姿……いや、ツルツルピカピカとワックスで磨かれたように頭で太陽光を反射させている場所が見あたらない。

すると「アアアアアアッ!!」という声と共に、私から見て右側、私鉄の駅に向かって必死に走る……



「あ、転んだ」



後ろ姿が見えた。



「逃げたぞ!」


「追え!!」


「いまお聞きになった音声についてひと言!」


「聞いてどのように思われましたかー!」


「あれは誰が聞いても脅迫ですよねー!」


「ヒィィィィィ」



最後の悲鳴は逃げる弁護士だろう。

身軽なマスコミが追いかけ、その後ろをカメラが続き、脚立を肩にかけた記者たちが追いかける。

仲間が追ったのか、マイペースに脚立を片付けている記者もいる。


それらを確認して、私は窓を閉めた。

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