対価を払っていただきます

アーエル

本編

第1話

異世界召喚によって失ったもの。

それは担任やクラスメイト全員のだった……





「おい、まだ生きてるぞ」


「家族と一緒に死ねばよかったのに」


「あまりにもデブスだったから、あの世も来てほしくなかったんだぜ」


「「「アハハ」」」


「「「ハハハ」」」


「「「キャハハ」」」



登校すると、わざと聞こえるような大声で私をイジメの標的にする。

私の家族は私が修学旅行に行っている間に、あおり運転の車に追突されて皆殺しにされた。

私は心をみ、過食症になった。

食べて、食べて、食べて、寝る。

不摂生な生活を続けていれば、あっという間に10キロ20キロと体重が増えた。

そんな私を、クラスメイトも担任ですらもイジメの標的にした。

ほかのクラスの生徒も、姉や弟のクラスメイトにさえ「お前が代わりに死ねばよかったのに」と悪意のある言葉をぶつけられる。



(なんで、アイツらが殺されなかったの?)


(お前らが死ねばよかったのに)


(バカは全員、死んでしまえ!)





私の願いは…………違う形で叶えられることとなる。





「おーい、三鷹ミタカぁ。ちょっと応接室まで来てくれ。

お、お前ら。三鷹は遅れるって担任に言っといてくれ」



職員室から出てきたのは学年主任。

また警察か弁護士がきたのだろう。

今度は何を言う?

目の前で金を積み上げる気か?

泣き落としか?



「いつまでもグダグダ言っても、これ以上は引き上げねえからな」



初めの頃は殊勝な態度だったけど、最近では開き直りや脅しも加わっている。

私が示談に応じないからだ。

家に来ないのは、どれだけ時間が経ってもマスコミが居続けているから。

だから学校に乗り込んで来る。



「ちょっと脅かすだけだった」


「まさかぶつかるとは思わなかった。あれは事故だった」


「死んだのは運が悪かっただけ」



よくもまあ、そんな言葉を吐くよ。

マスコミの存在を理由に、通夜や葬式に来て頭を下げることもせず。

一応、代理人に金を詰めた封筒を持たせていた。

しかし、その代理人は「これでに」と言い、怒った親戚が封筒を顔面に叩きつけて追い出した。

それがしっかり、顔もハッキリ、音声もバッチリの状態で生放送リアルタイムで流された。

代理人はマスコミの前で金の入った封筒を受け取らせればの証拠になるとでも思っていたらしい。

それ以降、代理人も本人たちも関係者も、一度も仏前に謝罪に来ないくせに。


だから前回会ったときに、こう言ってやったんだ。



「犯人の家族、親戚、身内。弁護士さん、あなたの家族、親戚、身内も。

各家族の中から姉と同じ高校生の女の子、弟たちと同じ中学生と小学生の男の子。両親や祖父母と同じ年代の7人を乗せた2台の車を同じ距離で走らせてください。

大型トラックであおり、恐怖を与え、最後は車体をぶつけて橋の下へ落として生きながら火だるまにしてください。

そこから『対等に話し合いが始まる』と思いませんか?」



絶句していた。

だけど、家族を一度に亡くす辛さや悲しみを味わわないで「気持ちはよく分かります」って…………白々しらじらしい。

そう言い捨てたら、顔面蒼白になって慌てて応接室から飛び出して行った。



「ねえ、まだ生きているよね。

誰も死んでいないよね。

トラックにぶつけられて運悪く橋から落ちて炎上した車や、同乗していた7人全員が死んだという事故のニュースは流れていないから」



応接室に入った私は開口一番、そう言った。

前回と同じ弁護士だったから。



「そんな約束はしていない!」


「私は『対等に話し合うための条件』を提示した。

家族7人全員を一度に亡くす悲しみが分からない以上、話し合いに応じることは出来ませんよ。

あっ、ですし、なんなら全員をマイクロバスに乗せて『死出の旅』に向かっても構いませんよ。

ただし、運転手以外睡眠薬で眠らせるのはアウトなんで。条件には『恐怖を与えて』って含めたんですから」



私を「悪魔だ」なんだと喚いていたけど、「そんな私に恫喝するアンタらの方が悪魔なんだよ」と返したら睨まれた。



「いいんですか~? またマスコミが聞きつけて騒いでも。

ここは高校で、この応接室は防音ではないんですよ~。

上の天窓、開いてるし」



そう、廊下の天窓はに開いている。

授業が始まって静かな校内。

そこで大声を張りあげていたら…………



「ちィィィっっくしょォォォ!!!」



覚えてろ!

次は絶対に許さないからな!!

という弁護士負け犬の遠吠えを残して応接室から消えて行った。

いや、だからさ。

前回も思ったんだけど、いい歳こいたオッサンが毎回毎回、静かに退室出来ないもんかねぇ。


授業に出たくなかったからちょうど良いわ。

いつものように職員室へ顔を出す。

話し合いが終わったことを伝えて「ひどい言葉を吐かれて心が傷ついた」ことを理由にそのまま帰ると伝えた。

あんな風に喚くから、私の希望は毎回叶えられる。

……それだけひどい言葉なんだろうな~。





近所の人たちに帰る姿を見せれば、私が学校でイジメられていることを知っている人たちが生徒の親を非難してくれる。

私が学校でいじめられていて、今日も早退したとマスコミにバラしてくれる。

そのため、私が「代わりに死ねばよかったんだ」と言われているのを……近所どころか全国にまで知られている。


だからといって、私も黙ってなどいない。

今日も、早退した私を見つけた記者が「こんな時間に……またイジメですか?」と聞いてきたので左右に首を振る。



「加害者家族や弁護士が金をチラつかせたり怒鳴って机や椅子を蹴りつけて脅して、事件をもみ消そうとしているのは知ってますよね」



そう尋ねれば誰もが無言のままで首を上下に揺らす。

カメラや録音機器を持っているため、肯定を全国に流すわけにはいかないからだ。



「従わなければお前も家族の元へ送ってやると。今日は学校に弁護士が来て色々と脅してきたんです。

…………そういえば代理人からは『加害者の親族が経営する風俗では未成年でも薬漬けにして働かせている。そこに送られたいか』と脅されたこともあります。

△市◻︎◻︎町にある××というお店だそうです」



よーい、ドンッ!

一斉に四方八方へと駆け出すマスコミ各社。

実在するその店は簡単に特定出来そうでされていない。

小学校を中心とした禁止範囲エリア内にあり、隠れて営業している店だから。

ただ、ネット掲示板で町名と店名を検索すれば簡単に出てくる。


特定屋が見つけた裏営業非公式風俗ピンクのお店。

会員制なのに店内外の写真や詳細……内装だけでなくメニューやの値段までバレていいのだろうか、と思う。

思った以上に、特定屋が有能なのだろうか。



実はこの店の話は、今日ではなく何回か前に『加害者の身内から依頼された代理人』という肩書きの人がもらしたこと。

話をするときは必ず録音して、あとで聞き直している。

そしてネットで調べたら見つかった、というわけ。

ちゃんと事実確認ウラドリをしてから、マスコミに情報を流しています。



スーパーに寄って大量に買い物を済ませたら、数日の不登校が周囲にも認知される。

私は今日来た弁護士から裏営業の店のことで脅されたとは言っていません。

勘違いされても困りますので、ちゃんとボイスレコーダーを使っていた人たちから聞き直してくださいね。

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