第2話

私の国の情報が一切ない?

「君も混乱しているだろうから、歩きながら話そう。」

「……」

私は彼の隣に並んで歩くことにした。

「さっきも言ったが、私は大学で歴史学を教えている。この地方にあった国を私が知らないということは本来ありえないんだ。」先生は半分自分に言い聞かせているようだった。

「さっき先生は私の国の情報が見つからないことを、[歴史に残っていない]ではなく[歴史から消された]と言いました。この理由を教えてくださる?」

先生はこの質問を待っていたかのように、間髪入れずに返事が返ってきた。

「まず、君の錬金術の説明に違和感を感じた。

君が生きていた時代はいつ頃だ?」

「私が生まれた年にこの地方の暦が統一されたわ。」

「なら今から720年ほど前ということになる。君がいた国では、[万物を変化させる完璧な賢者の石]は存在しないというのが定説だといっていたね。」

「はい。」

「私の知っている歴史では、賢者の石の存在が否定されたのは今から200年ほど前だ。それに君が言うエリクサーという物に関しては、聞いたこともない。」

「私の国の研究がなかったことにされている?」

「多分そういう事だ。」

ここまで話して先生は足を止めた。

「しばらく住む場所が必要だろう?私の家に泊まるといい、分かったことがあればすぐに共有できるしな。」

「いや、そこまでお世話になるわけには…」

「まぁまぁ、ほら、入って。」そう言って先生がドアを開けると、家の中には眼鏡をかけた、先生より僅かに若いであろう女性が顔をのぞかせた。

「あら、その娘は誰かしら?というかその娘の格好、まるで…」

「ええと、この子は…」ここでこの娘の名前を聞いていなかったことに気づいた。

「名前は?」

「リーフ・シュタウトです。」

妻はにっこり笑って彼女を家に招き入れた。

「今日はつかれたでしょう。この階段を登ってすぐのところの部屋で休んでてちょうだい。食事は後で持っていくわ。」

「すいません。ではお言葉に甘えて。」

「遠慮せずしっかり休めよ。」

「はい。先生。」

彼女が階段を登りきってすぐ、ドアが閉まる音が聞こえた。

「じゃああなた、説明してもらいましょうか。」

「あの娘の素性にはお前も気づいただろう?」

「ええ。まごうこともない、過去からの来訪者ね。」

私は彼女のことを妻に説明した。

錬金術が盛んな国から来たこと、彼女の国は歴史から消されていたこと。

「聞いたことのない国ね。」

「でもあったのは確かだろう。」

「ふふ、すっかりあの娘を信用しているのね。」

「辻褄が合うからな。」

妻はしばらく考え込んで「……確かに。」と呟いた。

「でも流石に都合が良すぎるのでなくて?」

「だよなぁ…」

時計の秒針が10回ほどなった頃、妻が口を開いた。

「まぁ、情報が少なすぎるから考えるだけ無駄ね。それより、あの娘のこれからのことが大事よ。」

「しばらくここにいてもらおうと思っている。」

「ええ。それがいいわ。」

「そして少し落ち着いたら私の勤める大学に通わせようと思っている。」

「あの娘にもこの時代の歴史を学んでもらったほうがいいわよね。」

「いや、」

わざとらしく立ち上がり、意外な顔をする妻の顔を見て、笑みを浮かべながら続く言葉を言った。

「彼女には化学を専攻してもらう。」









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錬金術師の私がタイムトラベル!でもその時代では私の国の存在自体が知られていないようで…… guitar @gyutanLove

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