錬金術師の私がタイムトラベル!でもその時代では私の国の存在自体が知られていないようで……
guitar
第1話
「じゃあ、ここは未来だっていうの?」
私の質問に彼は今まで見た中で(今さっき出会ったばかりだが)一番力強く、自信を持った様子で頷いた。
「あなたは私の他に過去から来た、という人を見たり聞いたりしたことはあるの?」
しばらくの沈黙の時間が流れた。
「ないと思う」彼はまた少し自信が無さ気な声色で答えた。
「じゃあなんでひと目見ただけで私がこの時代の人でないとわかったの?」
「その本、今では博物館くらいでしか展示されていない錬金術の本だ。」
彼は地面に散らかる私の持ち物を指さして答えた。
「???」全く頭の整理が追いつかない。
「君が最初に出会ったのが私だったのは幸運だった。私は、大学の歴史学者なんだ。もしかしたら力になれるかもしれない。」
「もしよければ、少しずつでいいから、君が元いた時代について教えてもらっていいかな?」
初めて彼から私に質問をしてきた。
「私がいた時代では、錬金術が技術の核心を担っていた。4つの基本元素のうちの一つ、火を使い始めたときから、大都市が形成される現在にいたるまでその技術の源は錬金術だったの。そして私もそのような錬金術師の一人だった。」一息ついて、今度は私自身の紹介をする。
「私の研究内容はエリクサーという、賢者の石のようなものを作ることだった。[ようなもの]とつくのは、[すべての物質を思うように変化させる完璧な賢者の石]というものは存在しない、というのが定説だからだ。だから特定の物のを別のものに変化させるのに必要な物質を一つ一つ構成する必要があった。その中でも卑金属を金に変化させるエリクサーはなかなか見つからなくて、多くの術師が、我先にと研究していた。」
エリクサーというのは、もともとは液体の賢者の石のことを指す言葉だった。それが賢者の石のまがい物のことを指すようになったのは、一般的には最初に生成されたエリクサーが液状だったから。といわれているが、実際はその存在が否定されても未だに万物のもととなる賢者の石が存在すると信じてやまない術師たちが多数派だからだろう。
「この時代に飛ばされた理由で思い当たることは?」
「この時代に来る直前、水銀を金に変えるエリクサーが生成されていないかと、実験に使っている醸造樽を見に行ってた。そしたら樽の中が暗くて様子がよくわからなかったから樽の中に身を乗り出したの。だけど樽の中の酸素は、実験に使ったアルコールが発酵したせいで、ほとんどが二酸化炭素になっていて、樽の中の空気を吸った私は意識を失っちゃて、樽の中に落ちちゃったの。そして目が覚めたらここにいた。」
彼はすっかり困った様子で聞いてきた。
「君がいた国名は?」
「アルケニア王国よ」
そういった瞬間、彼が一瞬動揺したのを私は見逃さなかった。
「ちょっと待って」
彼はポケットから取り出した薄い板を見つめながら言った。
「綴りは?」
「Alchenia」
少しの時間をおいてまた聞いてきた。
「その国が興る前にあった国は言える?」
「有名なのだと…ケミス騎士団だったかしら?綴りはC…」
私の言葉を遮って彼が興奮気味に言葉を続けた。
「私が知り得る情報の中では、アルケニア王国という国はなかった。」
「君の国が興った時代を大雑把でいいから教えてくれ。」さっきより語気が強い。
「アルケミデス博士が生まれたあたりよ。」
タイムトラベラーに会ってもずっと冷静だった彼の顔がどんどん青くなっていく。
彼は自信がなさそうに、だが私の目をしっかりと見て言った。
「聞いてくれ、君の国は歴史から消されたのかもしれない。」
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