第2虎 私は甲斐の虎…?

 気がついたら、森の中だった。私は裸足で、震えながら土を踏みしめていた。


「ここは…どこ?」


 だけど、私の脳裏にはハッキリと“それ”があった。


 戦国。甲斐。風林火山――


 武田信玄としての記憶。


「いやいやいや、まさか。私が信玄って、それはちょっとおかしい…。」


▶スキルを習得しました


▶スキル取得:猛虎使役(SS)【P:虎の忠誠度上昇】

▶スキル取得:風林火山(SS)【A:発動時、移動速度上昇50%+攻撃力上昇50%】

▶スキル取得:恋愛運:最低(C-)


「いや最後のやつ、なに?」


 森から現れた巨大な虎が、私の足元にうずくまった。


 ……どうやら私は、“タケダ=フウカ”として転生したらしい。


 猛虎使役…?この虎を?私が?手懐ける?上等じゃない!


「よく手に馴染む※軍配でやるだけのこと!」

※軍配とは、扇の形をしたもので、かつて武田信玄が戦場で指揮に用いた道具。


 手懐けた虎で小型のダンジョンを潰しまくる。


 小型のダンジョンで虎を暴れさせてただけなのに――


――王国ギルドAランクになってた。


 でも、私が目指していたのはそんなものじゃない。


 私は、“あの男”を探していた――


***


 そして今日、ついに見つけた。ゴブリンの群れを青白い剣で一掃した、その男。


「まさか…。」


 声が出なかった。でも心が叫んでた。


(それ、上杉謙信じゃん!!!!)


 あの男…、ギルド長と何か話してる?良く聞こえないな…。

 ちょっと素通りしてみる!


 彼は堂々と名乗った。


「――上杉謙信だ」


 脳が揺れた。心臓がバクバクしてた。ちょっと待って。私、転生して異世界きたら、“宿敵であり、唯一の心の拠り所”みたいな男に再会…。

 しかも、こっちは女の子で、相手はなんかイケメンに成長してて――


「なにこれ、恋の予感とか、そういうやつなの?」


 違う違う違う。私はタケダ=フウカ!信玄なんだよ私はッ!!


 なのに、あの目を見た瞬間――


(…ちょっと、嬉しかったじゃん、バカ…)


――これが異世界ラブコメの始まりだった。


 たぶん。いや、絶対そう。たぶん。




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