二次元美少女になったらやりたいこと、ぜんぶ

@udemushi

プロローグ

 自分の笑った顔が嫌いだ。

 いつからだったか、そう思うようになった。

 きっかけ、のようなものは特になかった、と思う。

 ただふと思ったのだ。

 キモチワルイ、と。

 なんて醜いんだと。

 会話の中で笑う度、頭の端にはいつも疑問があった。

 自分の顔は今、相手にどう見えているんだろう。と

 そう思う内に、他人と話すことが恐ろしくなった。

 アルバムの中に、笑う自分は一人も居ない。

 居なくていい。

 首から上が無性に邪魔に感じることがある。

 そんなときこそ、表情の無いヒーローや怪人を羨ましく思う。

 或いは、いっそ人間でさえなくなってしまえば、こんな苦悩から解放されるのだろうか。

 そんなふうにしか考えられなくなるくらいには「自分」が、自分を構成するもの全てが嫌いだった。

 顔、体、声、性別、心

 その全てが


『自分の長所だと思うところを教えてください』そんな言葉を投げつけられる度に思考が止まるのを、心が閉じるのを感じる。息が詰まる。

……私は――

 酸素を求めて口が開く。呼吸をしながら嘘を吐く。

 思ってもいないことを吐いている間だけ呼吸が出来る。

 馴れたいとも思わないが、毎度のことながらに気分が悪い。

――――

 好感を抱かれてしまっては、全身を掻き毟り、込み上げる絶叫を必死に押し殺す。

 それからはただ、これまで通り「普通の人間」のふりをする。

「怒られない」ために、当たり障りのない、耳当たりの良いことを吐き続ける。

 心なんて最初から存在すらしていないかのように、遠い何処かへ置き去りにして

 自分は今、どんな顔をしているのか。

 確かめたくもない疑問が、ふとした拍子に浮かぶ。

 鏡に、窓硝子に、マスクで下半分が隠れた顔が映る。

 醜いものだ。

 周りには、これがどう見えているのだろう。

 いっそ迫害でもしてくれればいい。罰当たりは承知しつつも、そんなことを考えずにはいられない。

 マスクの下にはもっと酷いものがあるのだから。

「……」

 あとどれだけ、こんなことを繰り返せばいいのだろう。

 あとどれだけ、この息苦しさに耐えればいいのだろう。

 あとどれだけ、人間のふりをしていればいいのだろう。


 長所なんてない。

 誇るべきことなんて何もない。

 何も積み上げられてない。

 何も得られてない。

 何も成し遂げられてない。

 これまでに、何の意味も価値も無い。

 ならこれからにも、きっとそんなものはあり得ない。

 誰かに望まれて生まれたなんて、考えたくもない。

 こんな醜いものが望まれたものであるなどと、考えたくない。

 綺麗なものであれば、変わっていただろうか。

 たとえば、絵や人形のような

 せめて、そういうものに生まれたかった。

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