第32話 楽園の代償

☆☆☆


それからいくつか月日がたったある日。いつものように、。朝練という名の駄弁り会を行うべく部室に入ると、昨日までなかったものが新しく導入されていた。


「こ、こいつは...!!」


「ふっふっふ、どうだい?我が部にもついに導入されたよ...!」


「やったねえ、ごねた甲斐があったねえ!」


俺の目に飛び込んできたのは、人類はおろか、その他の生物までも惑わす、伝説のぽかぽか器具...こたつだった。


「って、なんでうちにこたつが?てかごねたってなんですか!?」


「いやね、最近めっきり寒いじゃない?でさ、あまりにも寒いからって、小型ストーブが導入されることになったんだけど...」


「小型ストーブなんかじゃ足りないでしょ?それに、絶対こたつのほうがいいよね~って思って、直談判してたんだよ。で、それが昨日OKされてね、晴れてこたつがこの文化部に導入されたってわけ。」


「うーん...」


2人の話を聞いて、俺は首を傾げた。


「なに、こたつは嫌?」


「そうじゃなくて...実先輩、直談判ってどうやったんですか?」


「え、どうって...」


「いち部活動、しかも運動系じゃない...うちらに投資してもなにも帰ってくる見込みはないのに、直談判したくらいでこちらの要求が通るとは思えないんですが。」


「うっ」


「おいなんだ今の、やっぱり絶対なんかあっただろ。」


「い、いや~...何もないよ?うん、何も...」


「いやいやいやいや...先輩方?ほんとのことを言ってくださいよお、怒りませんからぁ。」


「...ほんとに怒んない?」


「うん怒んない」


2人は顔をも居合わせ、おずおずと切り出した。


「「じ、じつは...」」


☆☆☆


「馬鹿かあんたら!!」


「ひーん!」


「怒んないって言ったのにー!」


数分後、事情を聴いた俺は2人に説教を垂れていた。怒んない云々は方便だもの、昔俺も親に騙されたし。


で、なんでこんなに怒っているのかというと...


「俺がいないところで、なんで俺のコスプレバイトが決まってるんだよ!しかも無給て!!」


「し、仕方なかったんだ...!先生の知り合いがやってるケーキ屋で、どうしても人手が足りないっていうから...!」


「なら先輩たちがやってくださいよ!なんで俺なんですか!絶対面倒だからって俺に押し付けたでしょ!しかも...!」


このバイトの件で、俺が一番怒っていることを叫ぶ。


「なんでよりによって、コスプレ衣装が『ミニスカサンタ』なんだよ!!せめてトナカイであれ!!」


「足りないのがサンタ役で、衣装が女性用しかないっていうんだもん。仕方ないじゃんね。」


「なら咲月先輩がやりゃあいいじゃないですかぁ!!」


「いやだよ、ミニスカなんて。スパッツはいちゃダメっていうし。」


「俺だっていやだよ!!」


俺は叫びながら頭を抱えるのだった。


☆☆☆

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