第20話 神はきっと、俺を見て爆笑してる

☆☆☆


それから暫く、先輩2人に振り回された俺は、朝から元気エネルギーが空っぽになっていた。机に突っ伏し、ぐでーんと伸びている。


「つっかれた……まだ朝だぞ……これから授業とか地獄かよ……」


俺がボヤいていると、まだ犬の格好をしている2人が頭を撫でてきた。


「お疲れ様だね~」


「誰のせいだと……はぁ、もういいです。とりあえず着替えたらどうですか。そろそろHRの時間でしょう?」


「む、もうそんな時間。たしかにそろそろ着替えないと。今日はちゃんと忠告できたな、偉いぞ。」


そんなことを言いながら撫でてくる、咲月先輩。俺は同じミスはしない主義なんでね。


「僕はお手洗いで着替えてくるから、ここ使っていいよ。」


「わかった」


そういって、先に実先輩が部室を出ていく。次いで俺も立ち上がる。


「じゃあ、俺は先に教室行きますから、戸締りよろしくお願い─」


「ちょっと待った、どこへ行くつもりだい。」


何故か遮られた。


「どこって、いまさっき言ったじゃないですか。教室に行くって。」


「違う違う、そういう事じゃないのだよ、ワトソンくん。」


「誰がワトソンくんだ。……いやほんとに誰?」


「え、このネタ通じないの?」


「ネタ?これなんかのネタなんすか?」


俺が単純な疑問を投げかけると、咲月先輩はどこか遠い目をして、「これがジェネレーションギャップか……」とぼやいていた。


いや、そんなことより。そろそろ着替えないと本格的に間に合わないのでは?また俺のせいにされちゃ嫌なんだけど。


「なんの事か知りませんけど、とりあえず俺は先行きますから、先輩もすぐ着替えて教室行った方がいいですよ。それじゃ、また放課後に─」


ドアに手をかけたところで、咲月先輩に腕を掴まれた。


「もー、だからなんすか?」


「察しが悪いな、君は。この状況をなんとも思わないのかい?」


「この状況ぉ?」


俺は、改めて周りを見渡す。普通の教室に、教室に似つかわしくないものがあふれ、目の前にはコスプレした先輩がいる。


「うーん、カオスってことしかわかんないッスね。」


「そうじゃなくてだな……あぁもう、私が言うのもどうなんだこれ。もう少し察しておくれよ。」


咲月先輩は何かボヤきながら、俺の目を見て言った。


「女の先輩が、着替えるって言ってるんだぞ。残るだろ、覗くだろ、普通。」


「残んねぇし覗かねぇよ普通は!?」


もう色々とダメだった。この人の普通は、いわゆる普通じゃない。「逸」般人目線での普通の尺度が、一般人のそれと同じはずがなかったのだ。


どうやらまだ神様は、俺のことを困らせたいようだ。いい加減泣くぞ。


☆☆☆

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