窓際族のおっさんですが、社長の姪と社内SNS分析したらバズりすぎて、最速出世しちゃいました。〜見下した奴らをざまぁして、社長の姪であるJKと結ばれて成り上がる〜
第十四話:吉野さんの「特別」(葵視点)
第十四話:吉野さんの「特別」(葵視点)
ベッドの上でお気に入りのクマのぬいぐるみを抱きしめながら、私は天井をじっと見つめていた。頭の中には、かつてジムで吉野さんが言ってくれた言葉が、何度も何度も反芻される。
「葵ちゃんは、俺にとって、誰よりも特別な存在だよ」
その言葉が、まるで甘い魔法のように、私の心を温かく包み込んでいく。あの時の吉野さんの胸板、大きかかったな。
『イノベーション推進室』が社内で注目されるようになってから、吉野さんの周りはいつも忙しそうだった。
初めて会った時は、データ・リンク部の隅で、誰にも見向きもされずにパソコンに向かっていた吉野さん。私が彼を信じて、声をかけたあの日から、吉野さんの世界は劇的に変わった。嬉しいはずなのに、私の胸の奥には、小さな寂しさが芽生え始めていた。
社内での吉野さんの評価は、日増しに高まっている。プレゼンは大成功だったし、最近では業界紙にも彼の顔が載っていた。それに、社内外の女性たちが、ひっきりなしに吉野さんの元を訪れるようになった。
「吉野室長、この件、ご相談したいのですが…」
「吉野さん、今度お時間いただけませんか?」
みんな、吉野さんの才能に魅了されている。その輝く姿を見るのは、私にとっても誇らしいことだった。でも、同時に、私と吉野さんの間に、少しずつ距離ができていくように感じていた。
以前のように、放課後や休日に『イノベーション推進室』に顔を出しても、吉野さんはいつも打ち合わせ中か、誰かと電話で話している。ジムで会える時間も、彼の多忙を気遣って、私が遠慮してしまうことが増えた。
(吉野さん、どんどん遠い人になっちゃうのかな…)
私の心は、見えないモヤで覆われていくようだった。私は、吉野さんのことを「すごい人」だと信じていたけれど、それはあくまで、私が最初に彼の才能を見つけた、私だけの吉野さんでいてほしかったのかもしれない。
◆
学校終わりに会社へ行くと、廊下で吉野さんとすれ違った。彼も私に気づき、少し驚いた顔をした。
「葵ちゃん、どうした? 」
「えっと、ちょっと用事があって…。吉野さんこそ、お疲れ様です。また打ち合わせですか?」
「ああ、今から競合他社の藤原さんとね」
藤原さん。吉野さんの活躍が業界紙に載ってから、共同プロジェクトの話で接触してきたという、若手の女性マーケター。吉野さんは、彼女のことを話すとき、少しだけ楽しそうに見えた。
その時、私の胸に、ツンと痛みが走った。それは、これまで感じたことのない、チクリとした感情だった。
「…そ、そうですか。お仕事、頑張ってください」
私は努めて明るく振る舞おうとしたけれど、声が少しだけ震えてしまった。吉野さんは、私の小さな変化に気づいたようだった。いつものように、私の頭にポンと手を置く。
「葵ちゃん、どうかしたか?」
彼の優しい声に、胸の奥で渦巻いていた寂しさが、一気に溢れ出しそうになる。でも、ここで弱音を吐くわけにはいかない。私は、吉野さんの活躍を、一番近くで応援すると決めたんだから。
「ううん、なんでもないです! 吉野さん、無理しすぎないでくださいね!」
私は精一杯の笑顔を作って、そう答えた。吉野さんは、私の顔をじっと見つめていた。彼の瞳は、いつものように優しく、そして、どこか心配しているようにも見えた。
そして、彼は小さくため息をつくと、一瞬ためらった後に私の手をそっと握った。
「葵ちゃんは、俺にとって、誰よりも特別な存在だよ」
彼の声は、まるで囁くように優しく、私の心臓に直接響いてきた。
「君が俺の才能を見つけてくれたから、今の俺がいる。君がいなければ、俺は今もあの窓際で、何も変わらずにいただろう。感謝してもしきれないんだ」
彼の大きな手が、私の小さな手を優しく包み込む。その温かさが、私の心を満たしていく。寂しさも、不安も、彼の言葉一つで、全てが消えてしまった。
「だから、葵ちゃんが俺の側からいなくなったら、困るんだ」
彼の言葉に、私の視界が、一瞬だけ揺らいだ。まるで、彼の言葉が魔法のように、私の心に深く染み込んでいくのを感じた。
その瞬間、私の中で、これまで抱いていた「尊敬」や「憧れ」といった吉野さんへの感情が、ゆっくりと、しかし確実に、別の、もっと甘い感情へと変化していくのを感じた。
(これって…もしかして、恋…?)
私の顔は、きっと真っ赤になっていただろう。吉野さんの手が、まだ私の手を握っている。その温かさが、私の心臓の鼓動を、さらに速くした。
吉野さんは、私の変化には気づかないように、優しく手を離し、頭を撫でてくれた。
「じゃあ、行ってくるよ」
そう言って、彼は少し照れたように微笑み、打ち合わせへと向かっていく背中に思わず言葉を投げかけた。
「よ、吉野さんも、私の特別ですよ!」
それだけ言うと私はその場から逃げる様に立ち去った。
逃げた先で私は残された手の温かさと、彼の言葉の余韻に浸っていた。私にとって、吉野さんは、もう「憧れの人」だけじゃない。彼に会うたびに胸が締め付けられるのは、もう止まらない。
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