5章-4(5章終)
翌朝の朝議では、このところの懸案だった長子相続の法案を検討する予定だったが、昨夜のザハルとの話を受け、スーインは火の国の開戦意志と国境防衛に議題を変えた。
もちろん、ザハルとの話を打ち明けるわけはない。
暗影隊が刻々ともたらし続けていた、火の国国境の兵力の推移の仕方。小競り合いの発生の数と場所の変遷。それらを証拠としてまとめて開示した。
収集した火の国の動きから、火の国の開戦の意志は明確なこと、開戦の日は間もなくであると読み取れること。
また国境に展開している兵力は、水の国、火の国で拮抗しているため、このまま開戦すればすぐに事態が膠着すること。それを回避するには、初期に兵力を集中させて火の国を圧倒して、短期決戦に持ち込むことが肝要であると、でなければ泥沼の長期戦にいたる、と説明する。
が、中央にいて辺境の状況を知らぬ廷臣たちの動きは鈍かった。
「兵力はどのようにして増強するつもりだ」
「土の国との国境を守る西方辺境隊を分割します。防衛に必要な最低限の兵力を西方辺境に当て、残りすべてを南方辺境隊に組み込みます」
「それで土の国が攻撃してきたらどうするつもりだ」
「当面、互いに攻撃しないという条約を結びに使節を出しました」
あの小娘が確かにおらぬぞ、使節として行ったのだな、と侮蔑まじりの言葉がスーインの耳に入る。
スーインはその言葉が発せられた方を睨み、声を張る。
「昨夜、順調に調印したと早馬が帰ってまいりました」
おお、とどよめきが走り、同時に主が火の国の交渉に失敗しているのにあっぱれなことよのう、とスーインを侮蔑する言葉まで飛び出す。
拳をにぎり、さて異能でふきとばしてやろうか、それとも水攻めかと物騒な考えが脳裏をよぎったとき。
「静まれ」
アーサーが口を開いた。
「騎士団は右大公家のものだ。それで勝算があるのなら、そのようにするが良い」
「しかし陛下。戦となれば、右大公家のものだけではなくなりますぞ。兵站はどのみち国家が支えるものになりましょう。であれば、騎士団は右大公家のものだからとて、そう安易に決定して良いものでございますでしょうか?」
廷臣の一人が反論の口を開く。屁理屈ではあるが一面の理があり、そうだ、そうだ、というざわめきが、広がっていく。
そうなるとアーサーも鶴の一声の神通力を通しにくくなる。
しばらく眉間を寄せ、考えをめぐらすとアーサーは口を開いた。
「騎士団は思うように動かせ。許可する。ただ、開戦は避けられるよう、そなたが直々に火の国と交渉せよ」
「承知……仕りました」
ここまで来て、交渉とは……交渉決裂しているところに行けば、最悪、決裂を思い知らすために首を切られ、首だけ送り返される可能性すらある行為なのだが、それをしろというのか?!
騎士団の自由裁量にお墨付きを得たことは感謝であるが、引き換えの条件にスーインは絶句し、放心した。
気が付くと、廷臣たちはみな退出しており、スーインは朝議の場に一人取り残されていた。
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