彫刻

 どれだけ未来になっても、人間が美術にかける情熱は変わらない。

 それは彫刻においても同様だ。

 23世紀、ある高名な彫刻家が、静かに己の作品と向き合っていた。如来様の綺麗な御顔を、岩の塊から掘り出そうとしていたのだ。

 この時代では、使うのは蚤や刷毛ではなく、レーザー照射機や送風機である。

 レーザーであれば1m単位の微調整が可能であるし、送風機ならば刷毛と違って表面に余計な傷をつける心配もない。


 そうして、何年、何十年と彫刻家は時間をかけた。岩を削りだす、一手一手が慎重でなければならず、間違いも許されない。彫刻家は焦ることなく、己の人生の全てを賭す心構えで、如来像を彫り続けた。

 それから、さらに時が経ち、ようやく如来像が出来上がった。彫刻家は安堵の息をついてから、厳かに如来像へ向かって合掌し、一礼をし、それをもって完成とした。


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 さて、高名な彫刻家が大作を完成させたという知らせを聞き、ひと目如来様の御顔を拝もうと、マニアたちがこぞって集まった。

 そして『この時期の、太陽を背にした如来の姿がひときわ美しい』という口コミが評判を呼んだ。

 やがて木星付近には、宇宙船の大行列ができた。


「おお、そろそろだぞ」


 ある見物客が言った。宇宙船の群れはこぞって、同じ方向を向いていた。

 木星付近に位置する小惑星を削りだして作られた、“星彫り”の如来像。公転と自転を行う星を掘り出すなんて技術は、今や世界で数えるほどの人間しか持たず、ロボットにだって行えない。特製の機材を搭載した宇宙船で、何十年もかけて掘りあげられた、超大作だ。

 これはある時期のある時間帯になると、他の小惑星との重なりが無くなって、太陽だけが真後ろに位置する瞬間が訪れる。月食と同じ原理である。

 その瞬間の如来像は、まさしく後光を放つ姿となり、自ずと、鑑賞者たちもコックピットの中で合掌し、拝んでしまうのだった。

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