月よりも遠く

『いつか僕は、必ず月に行くんだ』


 子供の頃の君はとてもロマンチストで、月に手を伸ばしながら、自信満々でそんなことを言っていたね。

 一人、夜の堤防にて、柵にもたれかかりながら、月を見上げていた。

 白くて明るい月が、朝のように波を照らしている。一匹、クラゲが水面まで浮き上がってきてるのが見えた。クラゲは漢字で海月とも書く。波間に反射した月と合わせて、二つも月が浮かんでいる。

 あれならきっと、私の手にも届くのではないだろうか。

 まぁ、危ないからやらないけど。


 柵の上に腕を重ね、顎を乗せ、君のことを想う。

 もう、今や君は、月よりも遠い場所へ行ってしまった。

 声も聞けない。既読もつかない。顔も、カメラロールでしか見られない。会いたいと思っても、叶わない。

 

 遥か遠いその場所で、今、月よりも綺麗なものを見つけられているのだろうか。勉強のできた君のことだから、見つけられているんじゃないかな。見つけられていたらいいと思う。

 柵を乗り越えて、一歩踏み出せば、君に近づけるような気がして、なんて危ない、馬鹿なことを考えるなと、自分で自分を嘲笑う。

 それぐらいには、淋しい。

 今すぐ会いたいなと、想うのです。


 **


 そうして一週間後、君は帰ってきた。

 電話がかかってきて、まずは嬉しそうな声が聞けた。


『凄いよ、今回の有人探査では、新種のヒトデを見つけたんだ』


 思わず笑った。

 君はほんとに、月よりも遠い場所で、綺麗な星を見つけていた。


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