第2話 始まりの鐘 ①
疲労困憊の中やっとの思いで首都であるコンガルドに到着したシノアは、借りている宿にこのまま向かいたいという気持ちを抑えつつ依頼達成の報告のためにその足で
様々な店や建物が並ぶ中、周囲と比べて一際大きい門を構える建物が目に入る。
古い作りに後から増築したかのような歪さを持つその建物こそが、冒険者を管理し斡旋する冒険者組合である。
それ自体が古いせいかギギギという重低音と共に扉を開けると、中から冒険者たちの喧騒が響いてくる。
まだ夕方になったばかりだというのに既に今日の成果を祝い酒を交わす者が大半だが、これは特に珍しいことでは無い。
冒険者の多くは泊まり込みでの依頼を除けば、日が暮れる前に引き上げることが多い。それは辺りが暗くなれば自分に不利な状況しか生まれないことを知っているからだ。
楽しそうな喧騒を無視して、いくつかある受付窓口の中から比較的空いているところへ向かう。するとちょうど前に並ぶ冒険者の用が終わったのか、窓口に着く頃に入れ替わる形で自分の番となる。
そこでは無愛想ながらも品のある受付嬢として人気を博し、冒険者の中には熱烈なファンもいるらしいオフィーリアが佇んでいた。
組合の制服に身を包む彼女は、女性ならば誰もが羨むでスタイルと腰まで伸びた艶やかな金の髪を持ち、時折ピクリと動くツンと長い耳から彼女が
陶器のように滑らかで白い肌と
「…おかえりなさいませ、シノア様。珍しく遅めのご帰還でしたね」
「ちょっとしたトラブルがあったんだよ、それも合わせて報告するから手続きを頼む」
「なるほど、私はてっきり腕が落ちたものと」
「相変わらず失礼だな…!」
そうですか、と一言呟くと提出に必要な書類を取り出しカウンターに置く彼女。
据え置きの羽根ペンを手に取り、書き込もうとしたところでぶっきらぼうな声が頭上からかかる。
「…それで先程のトラブルとは何だったんですか」
「やっぱり気になるんじゃねぇか」
記入しようとしていてたペンを置き、オフィーリアの方へと向き直る。
最近になってなって分かってきた事だが、彼女は周りが言うほど無愛想という訳ではない。
ただ声質や性格からそう思われることが多いだけであって、目の前で少し唇を尖らせるようにする彼女は思ったよりも人間味に溢れている。
「別に。緊急を要する事態でしたら事ですので」
少し笑ってしまいつつも、懐から
卓上に置かれた鋼色のそれを見て、頭に疑問符を浮かべるオフィーリア。
「
「ただの異獣じゃない、新種のな。目印を付けておいたから、後発隊の調査員に加えて回収班も頼む」
「緊急を要する事態じゃないですか!!」
シノアの発言を聞くや否や血相を変え、鱗を手に取り奥へと消えていく。起伏した感情に合わせてか、彼女の耳がピクピクと動いていたのが目に残る。
既に倒しているとは言え、悪いことをしてしまった。後で菓子折りでも持って謝りに来よう。
この後の用事に菓子屋へ行く予定を入れ、待つ間に報告書を纏めてしまおうとすると。
「失礼する。盗み聞きのような真似をしてすまないが、先程の会話からあなたをシノア殿とお見受けするが、違い無いだろうか」
背後からかけられた言葉にゆっくりと振り向いたシノアは、驚きを隠せず顔に出してしまう。
そこには、外套を見に纏い
声からして女性だと判断できる目の前の人物は、シノアと同じくらいの背丈をしており。
その後ろに控えているもう一人はゆうにシノアの身長を越え、外套越しでも分かるその体躯と佇まいからはどう見ても男であった。
というより男であって欲しい。
だがシノアが驚いた要因はこのガタイの良い人物に対してでは無かった。
自分を中心として一定の範囲内にいる生物を任意で感知できるシノアは、振り向く前に咄嗟にその能力を発動していた。
冒険者として生きていく上で何かある度に癖として発動してしまう
こんな事は今まで一度も無かったが感知漏れでもしたのだろうかと、もう
昼間の
「そうだけど、あんたらは?」
「これは失礼した。私の名前はミサ、彼はロークと言う」
ミサの紹介に合わせて、頭だけを下げるローク。
「シノア殿には悪いが、この場で顔を明かすことは出来なくてな。込み入った話も含めて、二階にある個室を借りている。手間でなければシノア殿にもご同席願いたい」
「なるほど…悪いが先に依頼の報告を済ませてからでもいいか」
ちょうど他の職員への報告と後発隊の手配が終わったのか、オフィーリアが少し駆け足でこちらに戻ってくるとシノアと二人組を見比べ怪訝そうな表情を浮かべている。
「ちなみに何の用だ」
「ある依頼を受けていただきたい」
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