第1話 穿つ運命ならば ①
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ガィンッ---!
固い、金属同士がぶつかり合うような音が森に木霊する。
もう既に何度か鳴り響いているのか、音に驚き羽ばたく鳥も居なければ駆け出す鹿も見受けられない。
時刻は既に昼どきを回っているというのに、高く聳える広葉樹が密集しているため日が差し込む事は無く、辺りには暗闇が広がっていた。
ギィンッ---!
先程よりも甲高い音が響いたかと思えば、鬱蒼とした木々の間からひとつの影が勢い良く飛び出して来る。
その姿は、葉が覆い隠さず少し開けた場所に出たことにより全貌が現れる。
歳の頃は二十代半ばといったところか。
視界の邪魔にならないよう短めに整えられた頭髪。
身に付けている防具は防御面というよりも、身軽さを重視しており。自身のスタイルに戦闘スタイルに合わせて最低限のものだけを装備している。
首元のペンダントは思い入れのあるものなのか、大切に胸元にしまわれており光るチェーンの部分しか拝むことは出来ない。
彼の双眸は何かを深く警戒しており、普段とは違った様子だという事が伺える。
両手には造りの似た剣が握られ、それぞれの色が白と黒で統一されたデザインを有し、握り直すとそれに呼応するように淡く輝きを放っていた。
いわば双剣と呼ばれるその武器は他の物とは異なり、左の刀身に対して右の方がやや小ぶりの大小一対となっている。
緊張によって彼が唾を飲み込んだ瞬間、木々を薙ぎ倒しながらもうひとつの巨大な影が白日の元に身を曝け出す。
地響きを伴いながら激しく前進する四足歩行の獣---いや、分類的には爬虫類の方が近いのだろうその姿は一言で表せばトカゲに近い。
トカゲと言っても成人男性が三人分は収まってしまいそうなその巨体は、体躯に見合わない俊敏な動きで青年に追従していた。
ここらに自生している樹木はどれも幅数メートルはあろう幹だが、それを物ともせず突き進んで来るトカゲの表情からは一切の衝撃をその身に感じていない事が見てとれる。
全身を覆っているのは鋼色に輝き、触れる物全てを切り裂く鋭さと、あらゆる攻撃に対して絶対の防御を誇る攻守一対の鱗。
とても自然から生み出されたとは思えないその容姿は、古の時代、神々がこの地に降り立ったことによる副産物。悪魔たちの置き土産であった。
分類名・
種族名・
個体名・なし
相対する青年の名は、シノア・ククル。
今となっては
シノアは飛び出してきた
暗い森の中から突如として日の当たる場所に出たことによって、視界が光に呑まれた
シノアの気配だけは感じているのか、周囲を探るように見回したあと自らも木陰に身を隠す。
相手がひっそりと警戒するように構えているのを見て、シノアはようやくといった様子で深く溜め息をひとつ溢す。
「あとちょっとで帰れたっつうのに…ついてねぇな」
手元の二振りの剣に視線を落としつつボソリとボヤく。
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