第4話 崩壊


僕は「人間」から「ヒト」へと変わった。

ただひたすらに快楽を求めて。


マッチングアプリの女の子と会った翌日、いつもの日常に戻った。ただ変わったのは連絡を取る相手が増えた。彼女と電話をしながらも、メッセージはマッチングアプリの女の子と。

こんなことまさか自分がすることになるとは思わなかった。しかし彼女にバレることなく過ごしていた。

「飲みどうだったのー?」

と彼女から聞かれても

「普通に楽しかったよ。社会人になってから初めて友達と飲んだけどやっぱ楽しいわ。」

息を吐く様に嘘をついた。少しの罪悪感を抱きながら。

別の女の子と仲良くなってから、彼女との電話に苛立つ自分が減ってきた。きっと心に余裕ができたのだろう。よくないことだと頭で分かっていても「浮気をされたし」と言う正当化が全てを覆い隠していた。しかしその余裕が彼女との電話を雑にしてしまっていた。それでも彼女に疑われることはなかった。

ある日、マッチングアプリの女の子から「また遊ぼうよ。」と連絡が来た。その日は仕事で難しいと伝えたが、女の子から「家族が今日いないから夜に家でもいいよ。」と言ってきた。この時、自分でも「流石にこれで行ったらやばいよなぁ。」と思っていた。一方でそれを期待している自分もいた。正直、遠距離で付き合っているから性欲も溜まっていた。1人でしても虚しくなる一方で、彼女にはセフレらしき男がいる。そう思うと我慢している自分がアホらしくなってきた。女の子に「そう言うならお邪魔します笑」と返事を送った。

女の子の家に行く日、仕事が終わり、家に行く直前まで彼女と電話をしていた。一応今日の夜は電話をできないことを伝えていた。

「なにかあったの?」

と不意に彼女に聞かれた。

「なんで?」

と聞き返すと

「なんとなくいつもと違う気がする。」

これが女の勘というやつなのだろう。それとも僕が雑になっていたことに気づいたのだろうか。少しの不安がある中僕は

「連勤で疲れてるんだよ。ごめんごめん。大丈夫だから。今からすることあるから電話終わろっか。また連絡する!」

とだけ伝え強引に電話を終えた。

そして、女の子の家に向かった。部屋の番号を聞きインターホンを押す。するとすぐに「どうぞー。」という声と共に扉が開いた。そこには薄手のキャミソールにパーカーを羽織り、ショートパンツを履いた女の子がいた。いかにも男が好きそうな格好をしていた。スタイルがいい故に、目のやり場に困りながらも「お邪魔しまーす。」と部屋に入った。リビングに通してもらい、そこでゲームをしながらお酒を飲んだいた。その時は、ただただ友達同士の楽しい時間が流れていた。しかし、時間が進むにつれお酒の量も増えていき少しずつ酔いが回ってきた。エアコンが効いている部屋だったが、お酒も相まって暑くなってきた。すると

「あっついねぇ。」

と言いながら女の子はパーカーを脱ぎ出した。細く白い腕、そして大きな胸元が露わになった。お酒で赤くなっている頬も相まってとても色気が出ていた。そんな姿を見せられても、僕はなんとか理性を保っていた。浮気されたけど、好きな彼女がいるし。そう思って平然を装っていた。すると女の子が

「なんか眠くなってきた。」

と僕の膝に頭を乗せてきた。僕は

「眠いなら自分の部屋で寝ればいいじゃん。俺まだ眠くないし。」

と何もしませんよアピールをしてなんとか誤魔化そうとした。しかし

「えー。せっかくきてくれたのに1人で寝るのはもったいないじゃーん。なんなら一緒に寝る?」

と彼女は言ってきた。

これはどっちだ。酔ってなんでも言ってる状態なのか、それとも誘われているのか。僕は葛藤をしていた。しかし、理性を保って

「はいはい。とりあえず水飲んで部屋行きましょうねー。」

と自分自身も落ち着かせるために誤魔化した。

「はーい。」

と返事をして部屋に向かう女の子。とりあえずこれで大丈夫だろうと思った。すると部屋から

「水もってきてぇ。」

と声が聞こえた。あの子水飲んでないのかよ。と思い水を持って女の子の部屋に向かった。部屋の電気はつけておらず間接照明がついていた。雰囲気のある部屋にドギマギしながらも彼女に水を渡し、隣に座る。

「ありがとぉ。酔っちゃってやばいよねぇ。」という女の子。明らかに先ほどより酔いが回っている。

「大丈夫なのかよ。早く水飲んで寝なさい。俺は床で寝るから。」

何もしませんよアピールをして床に寝ようとした時、女の子が僕の腕を引きベッドへ引き摺り込んだ。流石にまずいと思い、

「流石にダメだろ。彼氏いるって言ってたじゃん。」

と焦ったふりをしながらまぁこうなるだろうなと思った僕。それでも自分からは手を出さず、また彼女の顔が頭をよぎったため引き剥がそうとした。しかし

「もう彼氏とは縁切ってきた。しつこかったし。それに、正直こうなると思ってたでしょ?じゃないと普通女の子の家なんて来ないよ。」

と見透かされている言葉が僕の耳元で囁かれた。そんな僕に追い討ちをする様に

「別れてからしてないんでしょ?私彼氏としかしないけど、今日はお酒のせいってことでいいじゃん。」

と僕の保っていた理性をぶち壊してきた。それでも僕は

「そりゃ溜まってるけど…」

と言いかけてる口を彼女の口が塞いだ。そして舌が交わった。僕は、「あ、やってしまった。」と思った。自分も浮気をしてしまうと思った。そんな僕にトドメを刺す様に女の子は

「だめ?」

と上目遣いでねだってきた。そして、僕の理性はどこかへ消え去り本能のままに彼女を貪った。ただひたすらに目の前の雌と交わる獣の様に。久しぶりの快感に身を委ねていた。女の子も快感に身を委ねているのを見て完全に理性というものは無くなっていた。善悪、倫理、理性など「人間」的なものではなく生物としての「ヒト」であった。


ここから徐々に僕は堕ちていった。ただひたすらに自分の本能にしたがい、理性を壊し、快楽を求めて。


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