第二話 制度と監視
翌日、少し緊張しながら、僕は生徒会のドアを叩く。
どうぞ、という返答を確認して、ゆっくりドアを開けると、部屋には二人の人物がいた。
一人は、僕も(というか殆どの生徒が)知っている顔、もう一人は知らない顔だった。
「アポ無しで、突然、すみません。2年の間宮彗と申しまして、アドバイザー部という部活の部長をしています。
部活株制度のルールについて、少し確認したいことがありまして……。
少し込み入った話になるかも知れないので、質問ボックスやメールではなく、直接伺わせていただきました」
挨拶も程々に、本題を切り出した僕に対して、知っている顔の方が、柔和な笑みを浮かべながら僕に答える。
「もちろん、全く問題ないよ。その為の生徒会なのだから」
彼は、新英総合学園の生徒会長、
……特殊な制度を持つ我が校の生徒会は、普通の学校のそれとは、その位置付けが全く異なる。
少々テクニカルな話になるが、組織上は、生徒会は、その傘下に「成果監視委員会」を有しており、実質的な役割はこちらがメインとなり、生徒会長である一条は、その委員長も兼務している。
(厳密には、生徒会長が、成果監視委員長の選任権を持っており、自己選任に伴う兼務となることが通例だ)
この成果監視委員会という組織が、この学園の部活株制度において担っている役割が大きく3つあった。
①部活価値の査定
②違反行為の監視、処分
③部活間の揉め事の仲裁
ここから推察出来る通り、生徒会は、この学園の制度の絶対的な「運用者」であり、その権力は絶大と言っても過言ではない。
一方で、その立場上、完全な中立機関となるため、年に一度の会長選で選ばられた生徒会長および、ほとんどの場合に自薦となる成果監視委員長は、個別の部活動には入部出来ない、という決まりになっている。
……ただ、表立っての理由としては、実務的なキャパオーバー(激務の生徒会長が通常の部活動を行うことは難しい)となっているため、例えば、生徒会のメンバーについては、部活動の兼務が可能となるケースもあるらしい。
ちなみに、その場合、査定行為には別のメンバーが担当する等、独立性を遵守した厳格な兼務ルールが設けられているという話だ。
事前に東堂から聞いていた話を、頭の中で反芻しながら、僕は続ける。
「ありがとうございます。部活株制度規則には『M&A制度』というものが、明確に規定されていると思うんですが……」
一条会長は、男の僕から見ても美しい容姿をしていた(「イケメン」ではなく、あくまで「美しい」という表現が適切だ)。
ウェーブがかかった栗色の長髪で、ここまで品の良さを醸し出せる男性なんて、テレビの中でも見たことがない。
その容姿から、会長は陰で「王子」とあだ名されているとも聞く。
ただ、僕は正直、それにはあまり賛同しかねている。
常に柔和な笑みを浮かべ、堂々と話すその姿は、確かに王子のように気品溢れるものではあるが、その目は常に笑っていないからだ。
「王」、なんなら「魔王」という表現の方が、僕にはしっくりくる。
「うん、よくそこに着目したね。君が認識している通り、部活同士の統合や買収は、本校において、『完全に認められている制度』になる」
突然現れた僕が発する質問に対して、まるで最初から準備していたかのように、澱みなく一条会長は答えた。
僕は続ける。
「これ、実は細則があまり明確に記載されていないのですが、基本的には、通常の市場環境におけるM&Aのルールであれば、適応されるという認識で大丈夫でしたでしょうか?」
「うん、その認識で構わない。
実は、細則が決まっていないのは、とある事情により、この制度が、これまであまり運用されていないことに伴うものでね……。
従って、手間となり申し訳ないが、基本的には、適宜、成果監視員に確認してもらいながら進めてもらうことになる。
ただ、いずれにせよ、君が言う通り、基本的にはマーケットで認められていることは実行してもらって問題ない。
逆に、社会通念上、『法令違反』とされていることについては、学園でも認められない、ということになるね」
概ね予想通りの説明に安堵しつつ、僕は一条会長の話で、気になった点を質問する。
「とある事情というのは……?
それと、適宜確認というのは具体的にはどのように確認すればよろしいのでしょうか?」
一条会長は、我が意を得たりとばかりに頷きながら答えた。
「いい質問だね。実はこのM&A制度は、この学園では上手く行った事例が極めて少ないんだ。
どうしても、成果主義を短視観的に捉えてしまう生徒が多いからね。
……どういうことか、君なら察しがつくだろう?」
「結局の所、生徒たちが、自分の利益のみを追求する傾向が変わらない以上、シナジーを発揮しきれず、空中分解する……とかでしょうか?」
シナジーというのは、実際のビジネスの場でも使われる用語だ。統合や買収における双方の相乗効果を指す。
例えば、とある会社が買収を行なうことによって、同じ商材の仕入れ量が多くなり、交渉力が上がって、仕入れ値を安くすることができる、なんてことが、挙げられる。
朝比奈の「共鳴視」は、いわば、このシナジーの発現可能性を、超常的な力で可視化しているものと考えていいだろう。
「本当に素晴らしい! 君はよく勉強しているね、話が早くて助かるよ。その通りだ」
褒めてもらえるのは、光栄だが、相変わらず目が笑っていないので、素直に喜ぶことができなかった。むしろ、手の上で転がされている感じがして、少し不快ですらあった。
もちろん、そんな感情は微塵も顔に出さずに、僕は続けた。
「そこは、難しい問題ではあると思うんですが、なんとか出来るんじゃないかと思っています」
「ほう、興味深いコメントだね。もう少しどういう考えか聞いてみたい気もするが……。
まあ、『成果』重視のこの学園だ。その原則に乗っ取って、『結果』を楽しみに待つことにしようか。
それと、もう一つの質問についてだが……、久遠君」
一条会長は、そこで初めてもう一人の人物に声をかけた。顔を見かけたことの無いその女子生徒は、ここまでの僕たちの会話を、顔色一つ変えずに、ずっと黙って聞いていた。
端正な顔ではあるが、かけているシャープな眼鏡と、表情筋の細胞が死んでしまったのでは無いかと心配になるくらいの無表情が、まるでロボットを連想させる。
「はい」
印象通りのクールさで女子生徒が答える。
「どうだろう、生徒会、いや成果監視委員会のメンバーとして、本件について、彼を助けてあげるというのは?
間宮君、紹介させてくれ。
彼女は
入学して早々に、生徒会の門を叩き、たった2ヶ月の在籍にもかかわらず、僕の右腕と言ってもいいくらいに成長している、非常に優秀なメンバーだよ。
君さえ良ければ、彼女を本件のサポートとして、入ってもらうかと思う。
……我々としても、この制度が形骸化しているのは課題だと思っていてね。
君のこれからの動きを、ある種の『テストケース』として考えられないかと思っているのだよ」
「もちろん、問題ありません」
体のいい監視役、と思えなくもなかったが、後出しジャンケン的にルール違反を指摘されるよりは、はるかに僕らにとって有益な提案だった。
しかし、『君さえ良ければ』と言いつつ、完全に有無を言わせない口調なのは、さすが「魔王」だ。
「ありがとう、久遠君はどうかな?」
「もちろん。会長の命令とあれば、何も問題ありません」
こちらには一瞥もくれず、会長の方を見ながら久遠は答える。
真顔で『心臓を捧げる』とでも言い出しかねない雰囲気だ。
それを受けて、僕はその場で久遠理沙と連絡先を交換する。
ロボットみたいな印象とは裏腹に、プロフィール画像がキモ可愛いと評判のゆるキャラだったのを、思わずツッコミかけたが、空気を読んで堪えた。
「何かルールで気になることが出てきたら、久遠君や、彼女を通じて僕に相談するといい。
他に何か質問はあるかな?」
「いえ、十分です。お忙しい中、お時間をいただきまして、ありがとうございました」
僕は一条会長に頭を下げる。
「なんの。この学園の更なる価値向上の為に、『成果』を期待しているよ」
相変わらず目は全く笑っていなかったが、にこやかに答える一条会長を声を背に、僕は生徒会室を出て、部室に向かうことにした。
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(話末あとがき)
貴重なお時間頂戴しての読了、誠にありがとうございます。
2週連続でヒロインが出ない、かつビジネス用語や制度説明の色が強い回を続けてしまいました。。(どうしても特殊な学園なので、ご容赦頂けますと。。)
次回よりヒロイン復活します!
少しでも引っかかるものありましたら、是非ブックマーク、ご感想等いただけると、とても励みになります🙇
どうぞ、よろしくお願い致します!
瑞木
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