第二章 表現と価値

第一話 相談と標的

「うーん、やっぱり『ターゲットスクリーニング』かな」


 帰宅し、家で日課をこなし、シャワーを浴びた後で、僕は自分の部屋で本条から聞いた話をまとめた自作の「議事録」を眺めながら、そう独りごちた。


 彼女の境遇に対して不謹慎ではあるが、その依頼内容は、「アドバイザー」としての僕を、とても興奮させてくれるものだった。


 同時に、その後の、朝比奈とのやりとりも思い出す。

 本条からの話を聞いた勢いそのままに、僕は朝比奈に「さっき、一度だけなら手伝うって言ってたよな?」と詰め寄った。


 朝比奈は、自分の話が途中で遮られていたにもかかわらず、ちゃんと僕が彼女のセリフ内容を認識していたことに加え、いきなりここまでトントン拍子に話が進むとは予想していなかったようで、若干の戸惑いの表情は浮かべていたものの、最後は諦めたように、コックリ頷いた。


 そんなこともあり、僕のテンションは最上級に上がっていた。


 本条に対しては、承った旨と、詳細の支援条件については後日説明させてもらう旨を了解してもらい、朝比奈には、また明日の放課後に部室に来てもらうことを約束させて、その場は解散させている。


 一度、僕自身、状況とネクストアクションの整理をしたかった。

 色々なことが一気に動き出したので、少し頭を冷やしたかったというのもあった。


 ちなみに、東堂はその様子をずっとニヤニヤ眺めていたので、この話は、ある程度形となるまで、絶対に口外しないことを約束させた。


 胡散臭いやつではあるもの、情報屋の命が「信用」であることは認識している人間のため、明確に口どめをした内容を、不要に人に話すことはないはずだ。

 この点はついては、僕はヤツを「信用」している。

 (「もちろんさ!」とにこやかに答える東堂の顔を見て、やっぱり話を聞く前に、退出させてとけばよかったと、若干後悔したのも事実だが……)



 以下が、今日の本条の話をまとめた議事録になる。


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【文芸部の概要】

・活動内容は創作活動中心(小説、詩、エッセイ等)

・制作物を校内展覧会や文化祭等で成果ポイントで販売。部費+当該販売による売上が収益となっている

・部員は部長の本条雪乃(2年)に加え、部員が2年に1名、1年に2名の計4名

(本件をアドバイザー部に相談することは全員合意済み)


【相談の背景】

・制作物の販売の場が限られていること、基本的には、各部員の「書きたいものを書く」ことを信条としているため、成果主義制度の下においては、定量評価が受けにくく、予算削減の危機にさらされている

(ただし、そのこだわり故に、制作物の評価は一部のニッチなファンを中心に悪くはなく、高くはないものの安定的な売上は毎年見込めてはいる)

・また、それに伴い、収益悪化リスクが相応に見込まれているため、部株価も伸び悩んでいる(全部活の中でも最下層に近い状況)

・本条部長、及び部員は、そのこと自体は認識しつつ創作はしてきたものの、このまま改善が見込まれないままだと、廃部の可能性もある旨が生徒会から通達されており、自分たちの創作発表の場がなくなること自体は何としても避けたいと思っている


【依頼事項】

・少なくとも廃部を免れるような、部活収益、及び株価の改善

・状況が状況なので、手段は問わない覚悟はある

・ただし、「書きたいものを書く」という信条だけは、先輩方から受け継ぐ伝統でもあり、自分たちがこの部に集まっている意義でもあるので、絶対に譲れない


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「ターゲットスクリーニングなんて、一端のファイナンシャルアドバイザーみたいなこと言いやがって」

 気がついたら、叔父がドアのところに立っていて、僕に声をかけてきた。


 僕の母方の叔父、間宮健二郎まみやけんじろうは、現役のM&A関係の経営コンサルタントをしている。この学校への入学が決まった後に、ビジネスの世界のことを、色々と教えてくれた僕の先生でもある。


 また、その前に、とある事情で僕が中学に通わなくなった時期に、色々と精神面でフォローしてくれたこともあり、僕は掛け値なしに、彼のことを尊敬していた。


 ちなみに、この学校に通うには、僕の実家は少し遠かったこともあり、通学可能範囲に暮らす叔父の家に厄介になっている。

 忙しくて家にいないことも多いとはいえ、独身貴族の叔父にとっては、色々と不都合もある時もあるだろうに、快くOKしてくれたところなども考えると、本当に聖人のような人だ。

(なお、東堂の家も僕の実家の近くなのだが、彼の場合は、親の投資マンションが学園の近くにあり、そこで一人暮らしをしている。

 容姿のみならず、その辺りの家庭背景も微妙に気障なヤツだ)


「あ、聞いてた?やっぱ、『っぽい』かな?」


「『っぽい』ね。でも、そういうことをアグレッシブにやっていくことが推奨されている学校なんだろ?面白そうだよな。

 俺の時代にあったら、高校浪人してでも通ってたわ」

 笑いながら、叔父が続ける。


「なんにせよ、彗がこんな風に前向きに学校生活を送ってくれるだけで、叔父さんとしては嬉しいよ。口出す気は毛頭ないから、お前なりに頑張れよ。おやすみ」


「ありがとう、僕なりにやってみるよ。もし詰まることあったら、また相談させて」


 この絶妙な距離感。やっぱり叔父さんはわかっているな、と思いながら、僕は思案に戻る。


 ……実は、今回の話を聞いて、ずっと気になっている、この学園の制度があった。あまり皆が活用していないこの仕組みが、もしかしたら、今回の文学部のケースで、上手く活用出来るのではないか、と考えていた。


 ターゲットスクリーニングは、その為の最初のアクションの一つになる。


「……何にせよ、まずはルール確認かな。明日の放課後に、生徒会に行ってみるか」


 僕は再度独り言を言いながら、僕の仮説が通った場合に向けて、あらかじめ学園内にある全ての部活のリスト再整理を進めることにした。



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