囁き愛
しゆ
第1話
「ねぇ、いと〜ちょっと耳貸して〜」
花織ちゃんがまた突然変なことを言い始めた。
花織ちゃんが突拍子もないのはいつものことだけど、今日はどうしたんだろう。
「なんでぇ?」
あたしがあからさまに困惑した声で聞くと、花織ちゃんはドヤ顔で返事をする。
「なんでって……ンフフフフフ
決まってるじゃん、ナイショ話するんだよ」
当たり前じゃないかみたいな顔で花織ちゃんがこちらを見ている。
「ほらほら早くぅ」
花織ちゃんがぶんぶんと手招きしている。
「分かった分かった」
あたしが花織ちゃんのところに近寄ると、花織ちゃんはあぐらをかいた足をぺしぺしと叩いて言う。
「ほら!ここに座って座って」
「は〜い」
あたしが大人しく花織ちゃんの上に座ると、
「よっしゃ捕まえた!!」
花織ちゃんが後ろからガバっと抱きしめてくる。
「わわっ」
突然抱きしめられてびっくりして思わず身体を離そうとすると、花織ちゃんは腕の力を強めて更に抱き寄せてくる。
「逃さないよ」
突然耳元で囁かれた声に、驚いて力が抜ける。
「よしよし、いい子だね」
驚いて抵抗をやめたあたしを見て、満足そうな声が耳をくすぐる。
「ね、ねぇ花織ちゃん、ちかっ……」
あまりにも近すぎる距離で響く声に、あたしが再び距離を取ろうとすると、花織ちゃんがあたしの耳をふっと吹く。
「ひええっ」
突然の刺激に変な声が出る。
「だーめ。どこ行くの?」
耳元で響く笑いを含んだ静かな声に、脳を侵されるような感覚が広がる。
「今は僕がいとの耳を借りてるんだから、いとが抵抗しちゃダメでしょ?」
「ねぇねぇ、今どんな感じ?
僕の声も、息も、全部いとの耳を溶かす為だけに使ってるんだよ」
「僕の言葉も、呼吸も、今はただいとの為だけのものだ」
「世界でただ1人、いとの為だけに言葉を紡げるなんて、僕は幸せ者だね」
熱の込もった声が、息があたしの思考を1つずつ融かして、あたしはなにも言えなくなる。
きっとこのまま、花織ちゃんが満足するまであたしの耳は溶かされ続けるんだろう。
もうそれでもいいや……。
すっかり脳を侵されて何も考えられなくなったあたしは、力を抜いて花織ちゃんに身体を委ねる。
花織ちゃんは満足そうに笑うと、一際熱を帯びた声で囁く。
「いと、愛してる」
囁き愛 しゆ @see_you
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