4章輝く7分咲きと決行
翌朝僕は久しぶりに学校の制服に身を包んだ。親には今朝「今日、学校行ってくる」とだけ伝えた。両親は泣きながら凄く喜んでくれたが、同時に「今日、日曜日だけど?」と冷静に言われた。僕は「ちょっと用事」とだけ答えた。僕は桜子の家の前で桜子を待っていた。やっぱり懐かしいけど、いじめられていた頃の記憶が蘇ってしまうから今すぐにでも脱ぎたい。けど、今回ばかりは逃げるなと何度も自分に言い聞かせた。
「おはよう。優君」
玄関から出てきた桜子を見て僕は桜子の制服姿可愛過ぎるだろと思う一方で、彼女の表情がいつもより曇っているのを見て胸が痛んだ。
「桜子、おはよう」
いつも以上の笑顔で挨拶をしたら、少し表情が和らいだので安心した。僕は「手を繋ぎながら行こうよ」と言って左手を出した。彼女は少し驚いていたが、すぐに手を握ってくれた。雑談で表情が段々和らいでいく一方で、学校に近づくにつれてその顔は段々強張ってしまう。いつの間にか学校に着いてしまった。僕らを嘲笑っている満開の桜には目もくれずに僕らは旧校舎へと足を運んだ。
「此処が旧校舎…」
旧校舎の感想は既にお化けがいると言われても信じてしまう程怖い。
「やっぱり、辞めない?」
桜子の顔には不安と恐怖が滲んでいた。
「…それは無理かな。怖いなら帰っても良いんだよ?」
彼女は僕の言葉を聞いて少し考えた後小さく首を横に振った。
そこからはお互いに黙々と作業をして、桜子は目玉シールなどで唐傘小僧を作っていった。
「この唐傘小僧怖いかな?」
彼女は完成した唐傘小僧を見せてきた。
「かなりね」
彼女は嬉しそうにガッツポーズをしている。…良いんだけど若干可愛いなと思うのは気のせいかな?
その後には休日だから一部のクラスメイトも来てくれて、休憩中には皆で怪談話などで盛り上がった。そうして楽しい雰囲気のまま1日目は終わりを迎えた。
2日目の今日は決行日。今日は校外学習の行き先を決める会議のため生徒は午前中に帰宅となっていた。そんな曇りの日に僕らは久しぶりに教室に足を踏み入れた。クラスメイトは特に驚く事もなく僕らを迎えてくれた。
「明俊、おはよう」
僕が言うと彼は「よう」とだけ返してくれた。その後に桜子は会釈だけした。ただこの状況に驚いているのが高尾だ。彼女だけは僕らが普通に登校しているのか理解出来ないらしい。
「よう高尾。随分と調子が悪そうだな?」
「…、たーー」
彼女は言いたげな顔で此方に来たが、言い出す瞬間にSHRのチャイムが鳴ったため彼女は何故か悲しげな表情で席に戻っていった。SHRでは担任が「橘君、佐藤さんがまた来てくれて良かったです!」とか言って大泣きしていた。
久しぶりの授業は桜子の顔が可愛過ぎて全然集中出来なかった。
授業が終わりいよいよ決行の時が近づいてきた。時間が過ぎて放課後になった。…計画開始だ!
午後1時の旧特別教室黒幕が来た。計画通りに出来たんだなと思い、次の段階へと移る。教室内の電気を消した。皆の配置は中央にお化け役が黒幕を囲っている。参加してくれた他のクラスメイトは後ろの机の前に。僕と桜子と明俊は窓際に居たが、明俊だけは興味がなさそうに景色を見ていた。
「「「うらめしや〜!」
お化け役が一斉に驚かした。
「ギャー!」
暗所で頼れるのが声しかない中で充分怯えていると理解出来た。
次に何個もこんにゃくを垂らして問いただす。
「吉野と橘の友情崩壊を仕向けたのはお前かー?」
「佐藤さんをいじめる指示したのもお前かー?」
少し怖くして真実えお言いやすくした。
「は、はい!全部アタシがやりました!だからもうやめてぐださい!」
泣き方から怖さは相当のものなんだなと感じた。それよりもいじめた事実を認めた方が遥かに重要だ。目的が達成したので電気をつけてカーテンを開けた。重要なデータを録音出来たので後は誰かしらの先生に渡して皆で謝れば終わる筈だった。
「ふざけんな!あんな事をしておいて俺達が許すと思ってんのか!?」
突然1人の男子が黒幕に殴りかかったのだ。
「痛い!やめて!」
泣きながら打たれた所を触る黒幕。…殴るのは計画にはなかった筈だ。
「だーー」
僕はその続きを言えなかった。何故なら彼と全く同じ状況の自分を想像してしまったから。それが中3の時に彼の恋人がいじめられてその後自殺をしたという話だ。そのショックか報復か、そこから彼の噂は不良とつるんでいる話やよく喧嘩をする話などの悪い話しか聞かなくなった。
「ごべんなざい!アダジが悪がっだでず!」
そこに次々と傍観していたクラスメイトが加わった。一方的にドスッ、ドスッと鈍い音が教室に響き渡った。
「…、高橋君達には謝罪の言葉が聴こえていないの!?」
桜子が黒幕と高橋達の間に割って入って大声をあげた。教室が先程と打って変わって静寂になった。
「邪魔をすんならお前も同じ様にすんぞ!」
「わたしは殴るのを辞めない限り退かない!」
高橋は桜子を脅していた。彼女はそれでも立ち塞がる。
「アタシを見過ごしていれば良かったのに…」
驚きと嬉しさが入り交じった顔で桜子を見つめる黒幕。
「そんな事言わないで!わたし達親友でしょ?」
無邪気な笑顔で桜子は手を差し出す。黒幕は手を取って泣いていた。
「桜子、怪我はない?」
瞬間、桜子の背後から拳が落ちかけてくるのを見た僕は無意識に桜子を庇っていた。高橋の手を軽く握りながら尋ねると彼女はこくりと小さく頷いた。その小さな顔は恐怖で滲んでいて足も震えていた。
「高橋さ、今桜子を殴ろうとした?」
無理やり怒りを抑え込む。低い声で優しく問いかけても何も言わないため強く握った。
「ああ、俺は殴ろうとした!…俺がやった事は正しいんだ!」
余程痛いのか目尻に涙を浮かべている。認めてはくれたが開き直ったのは許せない。でもひとまず桜子に被害がなくて一安心した。
「殴るな」
高橋をとりあえず黙らせようとして誰かに腕を掴まれた。掴んだのは明俊だった。
「それで佐藤さんが喜ぶと思ってんのか?」
どんなに力を込めても腕が抜けない。こんな圧を今まで明俊から感じた事はなかった。
「ちょっと手を離してよ!」
怒りに支配された僕は、周りを見れておらずただ高橋を殴る事しか頭になかった。
「冷静になって考えろよ。やったらお前も同じだ。それでも良いのか?」
そう言われ、なけなしの理性を働かせて深呼吸をした。完全ではないが頭から血が抜けた。
「もう大丈夫。僕を落ち着かせてくれてありがと。後であの話聞かせてよ」
彼が居てくれて本当に良かった。少し涙が出そうだった。
「了解」
彼は一瞬驚いた後、この場の雰囲気にそぐわない爽やかな笑顔で優しく言った。
「高橋みたいに桜子に手を出すなら僕が許さない事をしっかり覚えておいて」
周囲への威嚇が分かる様に声を大きくして言った。
「「…分かった」」
理解してくれたのか高橋達やクラスメイトはバツが悪そうにしていた。
「…どんな事があっても先に手を出した方が敗けだ」
僕はなるべく敵意を見せない様に温和な笑みを浮かべ諭した。
「お前に言われたくはねぇよ!自分の言葉を聞いてもらったからって偉くなったつもりか?」
高橋に睨まれる。その圧に声が出なくなる。
「僕はそんなつもりで言ってない。…お前こそ自分が正義の執行者になったと思ってんのか?」
臆さずに言うものだから皆驚いていた。既に覚悟は決めている。
「はぁ?ふざけんな!そんな事俺は一言も言ってねぇ!偉そうなのはお前だろうが!」
彼の腕が桜子に伸びていた。咄嗟に『桜子を護ってこいつを倒したい』と願ってしまった。そして再び手を掴んだ。
「…オレはお前を裁く前にアンタらに言いたい事がある」
「何でしょうか…」
委員長が聞いてきた。
「…オレは明俊から聞いたぞ!オレらが学校に来れない理由を知っているって!知ってたんなら助けてくれても良かっただろ!」
黙りやがったか。己の罪を自覚していない奴等め。
「いじめの傍観は間接的にいじめているのと同じなんだよ!さっき傍観していたオレが言う事じゃないけどさ、ふざけんなよ!」
いつまで黙っているんだコイツら?まぁ、後で全員ぶん殴れば良いや。
「…そんじゃ高橋。耐えろよ?」
「…、ねぇ優人。やめてよ」
右腕を振り上げた途端に小さなメスが何か言いながら腹に抱きついてきた。…アレ?誰ダッけコイツ?
「自分が言ってた事をもう忘れちゃったの!?」
そいつは泣いていてオレでも振り払えそうダッたガ本能ガ止メタ。
「邪魔すんな!」
「私の好きな優人はこんな事しない!」
ソノサけびはしっかり届いたと同時に自分が彼女にやろうとした事を悔いた。
「桜子ごめんね。正気を失ってて、後ごめん」
「…よかった!何もされてないから大丈夫」
とりあえず彼女を剥がしてから深く謝罪した。彼女は更に泣きながらまた抱きついてきた。
「皆、あんな事言ってごめんなさい。だけど、今後何かあったらお互いに助け合おうよ」
僕の言葉に皆が頷き、微笑んでいた。そんな教室を太陽が明るく照らしていた。
「「「高尾、怖い思いさせてごめん!」」」
それから数分後、桜子は離れてくれた。そのタイミングで僕らは高尾に謝った。そして高尾が調子に乗る事を危惧していた。
「少し怖かったけどへーきだって!…でも、アタシは皆に本当に色々と怖い思いをさせてしまいました。…、だからアタシを赦さないでください!」
ポロポロと涙が落ちる中、必死に謝っている姿を見て今までの行動に対する怒りとこれだけ言っているから許したいと思う気持ちで混乱してしまった。
「優人、佐藤さん。ブレザーのポケット光っているけど?」
少し沈黙が流れた後、それを明俊が破った。
「優君、『せーの』で一緒に見るよ!」
「え、僕そういうの苦手なんだけど…」
唐突に言うからつい本音を言ってしまった。絶対に嫌われたじゃん!
「行くよ!」
「ちょっと待って!」
僕の発言については完全にスルーして合図を出す彼女。そんな彼女によく笑顔でいられるなという驚きと、笑顔になれて良かったなと感じて慌てて準備をした。
「「せーの」」
同時に見てみると願掛け桜の花びらだった。誰かが「二人共の花びらもの凄く綺麗な桜色じゃん!」と言った。僕は二つを見比べて、桜子のと枚数以外が同じ状態になった事に内心安堵と喜びが出てきた。
「おおこれは伝説の桜か」
明俊の顔には驚きと興味が表れていた。僕は他の人と違い彼の反応に疑問を持ちつつ、今はただこの喜びを噛み締めていた。
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