3章嘘の5分咲きと遊園地

昼食後はまずお化け屋敷に行ったが元々怖いのに耐性があり、思案していたせいもあって更に耐性が付き反応がとても薄くなっていた。お化け役に驚かされても何の反応も無し。だが隣は物凄く怖がっていた。僕の服を千切りそうなくらい裾を掴んで、お化け役に驚かされたら「ねぇ!こっちに来ないで!」と悲鳴をあげていたくらいだ。それを繰り返す内に最後には桜子が失神していた。

仕方が無いなと思い、お化け役が必死に「ごめんなさい」と謝る中で彼女を背負ってお化け屋敷を出て、仕返しのため近くのベンチに寝かせた。5分後に彼女は起きた。

「体調は大丈夫?」

僕は心配から顔を見て言った。

「だ、大丈夫だよ」

彼女の顔は少し紅く染まっている気がした。


「ねぇ、次はあの立体迷路行こうよ!」

桜子が回復後、早々に行きたいと言った立体迷路は全国で三番目に大きく、県内で有るのが此処だけで、更に著名人が何度もロケを行った場所として全国から人が来るくらいは有名だ。

「…分かったよ」

少し考えこの結論を出した。なんで高い所に連れて行こうとするのかと疑問に思いつつも手を引かれるがまま立体迷路へと向かった。

「優君、わたし先に行ってるね」

最初の数分こそはペースを合わせてくれた桜子だったが5分経ち僕が遅過ぎるからか待ちきれなくなって先に行ってしまった。まあ、桜子らしいや。

「もうゴールしたの!?」

それから10分後にゴールの合図である鐘が鳴った。これはクリアするまで平均的な身体能力の人なら45分かかるのだが、此処迄速いのは桜子だなと思いながら必死に迷路を攻略した。

「疲れた…。桜子速すぎ。今度から少し僕にペースを合わせてくれないかな?」

鐘が鳴ってから35分後、迷いに迷い僕は漸くゴールに着いた。正直少し怒っているが、彼女を泣かせたくないので我慢をして言った。


いつの間にか17時を回ろうとしていた。最後が何処に行こうか。そういえば此処は綺麗な夕焼けで有名な事を思い出した。

「最後は観覧車乗らない?日本で綺麗な夕焼けが見れる観覧車100選にも選ばれているから絶対に今日1番の思い出が作れるよ」絶対に声が落ちたから笑われるだろう。僕は拒否されるのを想像して早くも悲しくなっていた。

「急がないともう乗れなくなるよ」

実際の答えは違かった。子供の無邪気な部分と大人の余裕がある部分を合わせた様な笑顔にふと数秒景色が白黒のになり桜子だけが色付いて見えた様な気がした。その間聴こえたのはドックン、ドックンという自分の心音だけだった。今の腑抜けているであろう顔を見せまいと必死に目を逸らした。桜子は僕が目を逸らしたのか分からず右往左往していた。

「…そんなにさっきのわたしの顔可愛かった?」

彼女は自分が原因だと分かったが恥ずかしそうにしていた。僕は肯定も否定も出来ずに黙っていた。彼女は沈黙を肯定と受け取ったのか更に恥ずかしそうにしたいた。この現状を打破するためにすぐに立ち上がり桜子の手をギュッと握りさっさと観覧車へ向かった。


観覧車からの景色は100選に選ばれているのもありとても絶景で海に映る夕日と街の夕焼けがマッチしていた。桜子が凄くはしゃいでいるから此処に連れて来て良かったな。ただ、彼女にとっての親友が自分を不登校にさせるよう仕向けた黒幕だと知ればとても悲しくなり今の笑顔が失くなってしまうのを危惧して言い出せ無かった。

この観覧車は絶景を見せるため2分間止まる。そこで桜子に「優君」と呼ばれ、すぐに顔を彼女に向けた。

彼女の目は僕を心配していた。

「お昼頃から無理して笑ってない?」

彼女は僕の悩みを偶にピンポイントで見抜く。

「無理してないよ」

僕は出来る限りの笑顔で答えた。その後すぐに桜子が子供の様に頬を膨らませて僕の頬を摘まんで来た。

「優君。それじゃ、わたしは騙せないよ。優君が嘘吐きの時は首を掻く癖があるからね」

そんな癖が有ったのかと驚いたが、見破られたなら話すしか道が無い。なら話す前に一つ彼女に確認しないと。

「今から僕は君に周りの人が信じられなくなる様な話をするよ。聞いてくれるかい?」

彼女はキョトンとした顔で僕を見つめてきた。そしてその顔で数十秒悩んだ。

「その話聞くよ。もしもの時は慰めてよね優君」

彼女は微笑んだ後大きく頷いた。腹が決まっているなら大丈夫だと思い、僕も「分かった」と言って微笑んだ。

「君をいじめる様に指示したのは君の親友の高尾だよ」

僕は少し悩んだ末に話すことにした。刹那、桜子の顔に悲しみと困惑が現れた。その反応は当然だ。自分にトラウマを植え付けた人を裏で操作していた人が居てそれが親友だったという状況下なら僕も同じ反応になる。僕らの使命は高尾に今までの罪を自覚させて反省をさせる事だ。彼女を少し落ち着かせてから目的達成のためにますは明俊に入れ、その後彼を通じて高尾とその取り巻き以外に計画を伝えてもらった。

明俊から「俺には恋人としてあいつの行動に対する責任があるから協力する。後、皆大賛成だって」というメールを受けた。高尾が彼女なのは驚いた。そして、一部の人が賛成してくれなかったのは残念だが。

「…、これが明後日の計画内容だよ」

桜子は話した内容に「復讐」という単語が出たのを聞き逃さずに不安な顔で計画を中止しようと言ったが内容を聞いて終わったら高尾に皆で謝るという条件付きで彼女の協力を得た。

少し雑談していたら観覧車がいつの間にか一周していて急いで降りた。計画を全て実行した時のあいつの顔を早く見たくて明後日が待ち遠しい。当時の僕はこの決断があんな大事件を引き起こすなんて予想していなかった。

 帰り道に桜子が花屋に寄りたいと言ったため、花屋で花を見ていた。暫く花を見ていると店員さんが本日のオススメと書かれたピンクのゼラニウムを勧めてきた。桜子は少し悩んだ後に僕に「買いたい」と目配せしてきた。高尾へのプレゼントに一輪買ってあげた。

因みにゼラニウムの花言葉は店員さんによると『真の友情』らしい。

「何かお探しですか?」

店員さんが笑顔で僕にも話しかけてきた。

「…ピンクのコチョウランを探しているんです」

店員さんが美人だから少し見惚れてしまった。そこに桜子の冷たい視線が頬に突き刺さった。

「アレンジは何になさいますか?」

彼女は難なく見つけてくれた上でアレンジも提案してくれた。

「…フラワーアレンジメントでお願いします」

そう言ったもののその場で見せるのは恥ずかしいので桜子には外で待っててもらうことにした。

「それぞれの花言葉をお教えしましょうか?」

アレンジメントは桜子を出してから2分後に完成した。そして店員さんがセレクトした『好きな人に贈るアレンジメント』を見て彼女が羨ましいそうな声でそう告げた。

「お願いします」

「分かりました。花言葉はピンクのコチョウランが『永遠の愛』、ピンクのバラが『幸福』で11本のバラが『最愛の人』、緑色のカーネーションが『癒し』です。…お兄さん、告白頑張って!」

店員さんは説明の後、羨ましいそうな声な表情で僕の顔を数秒間見つめてきた。その後すぐに飛び切りの笑顔で勘違いだが応援してくれた。

店を出て買ったフラワーアレンジメントを渡すと彼女は「ありがとね、優君!」と言って凄く喜んでくれた。

そのまま歩いていたら気配を感じ振り返ると昼間の純黒な青年が居た。

「もうスグオレは出られるから待ッテテネ」

独り言で空を見ていたので此処に居ない誰かに向けた言葉なのかもしれないが気にせずに桜子を追いかけた。


「橘君、来週こそ学校に来れそうですか?」

帰宅してソファでゴロゴロしていたら担任から電話がかかってきた。彼は少ししか直接会ったことしかないが、年齢は30代と若くクラスでの問題を解決することに心血を注いでいる。僕にはその態度がウザくて彼と話しているとトラウマが蘇ってしまうので苦手な部類に入る。

「何度も言いましたよね?僕は学校という場所も大人も信じれないと」

僕がこうなったのは中学2年生迄遡る。当時の担任はヤンチャしていた僕に怯まずよく話しかけてきた。内容は勉強の話ばっかりだったがとにかく教え方が上手くてひたすら話を聞いていた。けどある日突然殴られた。理由を何度聞いても「お前への特別な教育の一環だ」の一点張り。そこから毎日殴られた。それだけではなく同級生には顔を水に無理やりつけさせられるなどをされて毎日いじめられた。そしてこの事を学校は公表しなかった。…だから学校なんかに行きたくない。

「すいません、ちょっと寒気がするので切りますね」

「橘君、大丈ーー」

先生の心配を他所に電話を切ったが体が恐怖で震えていた。

「…早く忘れたい」

独り言は虚しく響いた。こんな思い出消したいのに消せない。…僕はもう1度学校に行けるのかな。

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