第3話 - 重なりそうで、重ならない

窓の外には、ぼんやりとした日差しが差し込んでいた。

雨でも雪でもない、ただの曇り空。まるで感情が押し殺されたような、そんな天気だった。


教室のドアを開けると、いつもの風景が広がっていた。

変わらない静かな教室。そして、静かにイヤホンを耳に差し、席に座っている彼女――翼トワ。


俺は、無意識のうちに視線を逸らしていた。

いや、もしかすると――「今日は目を合わせないようにしよう」って、自分に言い聞かせていたのかもしれない。


だけど――


彼女は先に、こちらに視線を向けてきた。

しばしの静止。目が合った。


その瞬間――俺はまた、目を逸らしていた。


別に理由があったわけじゃない。気まずいとか、怖いとか、そういうのでもない。

ただ、なんとなく……今日は声をかけられたくなかった。


そんな俺の気持ちを知っていたかのように、彼女は静かに口を開いた。


「プリント、昨日の分、置いていったでしょ。」


俺は一瞬、彼女の手元を見た。

一枚のプリント。ただの紙一枚。それだけのはずだったのに――なぜか、今日は少し違って見えた。


「あ、ありがと。」


短い言葉。それに続く沈黙。


だけどその沈黙も、なんだか少しずつ慣れてきていた。


席に着いてイヤホンを耳に差す。

いつもの音楽。でも――その日だけは、やけにリズムがずれて聴こえた。


なぜだろう。

彼女との視線、たった一言。それがまるで波紋のように、静かに心の奥を揺らした。


その感情が何なのか、まだ自分でもよく分からない。

でも確かなのは――その感情が、昨日とは少し違っていたということ。


だから俺は、今日という日が少しだけ居心地悪く感じていた。

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