第19話 一方、勇者パーティーは

 ゴブリンの森を迂回して到着したコロッセオでは、ちょうど闘技大会が催されていた。

 闘技場の歓声が外まで響き、熱気が伝わってくる。


「今回の大会は、いつもとちがう雰囲気だよな」

「ああ、俺もそう思う。女性の参加者も多いしな」

 町の話題も闘技大会一色だ。


 勇者たちも闘技大会に間に合えば出場してみようかと話していたのだが、一足遅かったようだ。

 

「レア装備が手に入るって聞いていたけど、間に合わなかったんなら仕方ないな」

 勇者があっけらかんと笑う。

 

「それはそうと、決勝戦まで勝ち進んでいる美少女の名前がユーシャらしい」

 斥候はなにかと耳ざとい。


「なにっ? まさか勇者を騙る偽物か!?」

 

 ガタンと大きな音を立ててイスから立ち上がったパラディンを、賢者がまあまあとなだめる。

 ここは客が大勢いる食堂だ。

 エリスで失敗したような悪目立ちを、またここでするわけにはいかないと、賢者は言いたいのだろう。

 

「いいじゃないの。よしんばそうだったとして、私たちに損はないわ。勇者が決勝戦まで進出したって勝手に噂されれば、名誉なことよ?」


 勇者も、賢者に賛同するかのように頷いた。

「それに、本当にユーシャって名前かもしれないしな」


 さてと、と言って勇者が立ち上がる。

「腹ごしらえもできたことだし、闘技大会はユーシャちゃんに任せて俺たちは先に進もう」


 勇者パーティーはそれがローゼリンデであることなどつゆほども知らず、コロッセオでは食事をとっただけですぐに出発した。


「次は、試練の祠だな」

 勇者が地図を確認する。

 コロッセオから北東に進んだ位置に記されている祠だ。


 試練の祠――歴代の勇者が必ず通過することを義務付けられたダンジョン。

 試練を乗り越えれば、強大な力が得られるという。

 

 ただしこれは、四百年前の記録書『勇者伝』に書かれているだけで、信憑性は疑わしい。

 あの錆びてボロボロだった聖剣と同じだ。

 しかも『勇者伝』の編纂者は、勇者本人でもパーティーの一員でもないらしい。


 先代の勇者たちの冒険譚の伝聞や各地に残る伝承をまとめた、ただの歴史研究家だという。

 そう、編纂者は実際に見てなどいないのだ。だから勇者が聖剣を抜いた場面も「剣が抜けた」としか書かれていない。


 勇者は、この『勇者伝』に書かれている内容と同じルートを辿れと言われている。

 その根拠は定かでないが、なにせわからないことが多すぎるだけに、そうしておけばまちがいなさそうだ!ぐらいのものだろうと踏んでいる。

 

 先代勇者がコロッセオに立ち寄ったエピソードには『闘技大会で優勝したとの逸話もある』との注釈がついていた。

 だから参加してみてもいいかもしれないと思っていたのだが。

 到着してみれば、すでに大会がはじまっていて間に合わなかったのだから仕方がない。

 次の開催は三カ月後だという。

 それまでコロッセオに逗留しつづけるほう、現実的ではないだろう。

 

 試練の祠にどのような効果があるのか、それはまだ有効なのか、何もわからない。


 試練の祠は、地図記号が「遺構」を表す印になっている。

 正直、嫌な予感しかしない。それでも彼らは行くしかないのだ。


 長い旅を終えた時、自分だったら次世代へ引き継ぐ記録書をどのように残すのか。

 聖剣を抜いたと嘘をつくのか、それとも――。


 ふと脳裏によぎった思いを振り払うように勇者は笑う。


「さあ、行こう!」


 明るく楽しくが勇者の旅のモットーだ。


 しかし到着した試練の祠は、どう見てもただのボロボロの遺構だった。

 管理している者がいる様子もなく、周りは雑草に覆われている。


「なあ、ここが入り口でいいんだよな?」

 勇者が草をかき分けて指さした。

 レンガをアーチ状に組んである場所は、大きな石と土で塞がれている。


「本当にここなの?」

 賢者はわずかに顔をしかめて、せわしなく視線を動かす。


「ほかに入り口があるのかもしれないな」

 斥候があたりを見回した。


「コロッセオと同じように、とりあえず到着したってことで試練を受けずに次に行くのも手かもな」

 勇者がそう言いながらなにげなく石に触れる。

 すると驚いたことに、詰まっていた石と土がガラガラ崩れて入り口が開いた。


 パラディンが笑った。

「俺たちを受け入れている証拠か。どうやらここは、パスできなさそうだな」

 

 勇者も頷く。

「そういうことなら行くしかないな。ここから先は何が起こるかわからないから、慎重に行こう」

 

 斥候を先頭に、勇者たちは試練の祠の内部へと足を踏み入れたのだった。

 

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