第18話 その頃王城では2
昼下がりの執務室で、国王と王子たちがそんなやりとりをしていた時、側近のひとりが入室してきた。
「聖剣の台座を公開すべきだとの声が、ついに国民たちからも上がっております」
先日、議会でその話題が出た。
勇者は本当に聖剣を抜いたのか――と。
緘口令を敷いたというのに、あの場に立ち会った大臣のひとりが漏らしたのだろう。
その噂が、すでに市井にまで広がっていることに悪意を感じるエドガーだ。
国民の声が大きくなれば、無視するわけにもいかなくなる。
しかも、その噂が事実なのだから頭が痛い。
「まあ、よい。それで?」
国王が表情を変えずに問うているところへ、側近の後ろから財務大臣が姿を現す。
なにかと国政にケチをつけてくる、目の上のたんこぶのような存在だ。
勇者が聖剣を抜くのに失敗したあの日、財務大臣は立ち会っていなかった。
「要望通り、台座を公開すればよいだけではありませんか」
財務大臣が、脂ぎった顔に薄ら笑いを浮かべている。
「ほう。見せろと申すか」
「勇者は聖剣を持って旅に出たのですよね? 何をためらわれることがありましょう」
「「しかし……!」」
エドガーとロバートが、同時に異を唱えた。
ポーカーフェイスを保つことさえできない双子の王子たちの様子に、財務大臣は含み笑いをしながら悪そうな顔をする。
「その態度こそが、何か隠しごとでもしているようで疑わしいですな」
そうじゃない! エドガーは、叫びたい衝動だけはどうにか抑えた。
勇者が抜けなかった聖剣をローゼリンデが抜いてしまったという、大きな隠しごとならたしかにある。
しかし異を唱えたのはそのことではない。
台座が重すぎて運び出すのが大変なだけだ。
勇者が抜けなかった聖剣を地下の礼拝堂に置いていたのは、部外者がおいそれとは入れぬ場所に隠したかったから。
もちろん、その事実を隠蔽するためだ。
勇者には別の剣を持たせて出発させた。
こんな錆びついた剣が抜けるものか。そもそも岩に刺さっているというだけで、これが伝説のエクスカリバーであるのかさえも疑わしい――誰しもが心の中で、そんな言い訳をしていた。
対外的には、
「勇者と聖剣は、大勢の者に見守られるのが恥ずかしかったようだ。あの後、ひとりでやり直したらあっさり抜けた」
と公表している。
聖剣が抜けなかったとなると、あまりにも外聞が悪い。
勇者の存在の正当性が疑われると、王室の威信にだって関わってくる。
聖剣の台座と呼ばれている物は、ただの岩。
言い伝えによれば、先代の勇者が魔王を討ち滅ぼした直後に聖剣を鞘ごと、すぐ近くにあった岩に突き刺したのだという。
大人の男でひと抱えほどある大きさで、相当重い。
あの時も、エドガーとロバートのふたりで「腰がヤバい」だの「肩が死ぬ」だのヒイヒイ言いながら運び入れたというのに。
またあれを運び出せと言うのか――冗談じゃない!
エドガーとロバートは目で必死に訴えたが、国王は無視をきめ込む。
「よかろう。運ばせよう」
国王の言葉に、双子の王子たちはいまにも泣き出しそうな顔をしながから頷いた。
地下へと赴くふたりの足取りは重い。
他者には聞こえぬようブツブツ悪態をつきながら礼拝堂の扉を開けた。
中には女神像と燭台しかない。
台座に刺さったままの聖剣を女神像の背後に置いたのは、ほかに隠し場所がなかったからだ。
ローゼリンデが毎朝ここで祈りを捧げているのは知っていた。
だから、見える位置に堂々と置くのは避けたいと思ってそうしたし、うまく隠せていると思っていたのだが。
ここまで苦労して運び、礼拝堂の中には清掃係すら入れぬようにしていたというのに……。
呆れすぎて、思わず笑いが漏れるエドガーだ。
「なんでロージィは、あの剣が抜けたんだろうな」
「さあな」
台座に空いた穴を見つめながら双子の王子たちがボソボソ言い合う。
試しにふたりも抜いてみようとしたことがあるのだが、当然抜けなかった。
いや、力を入れすぎたら錆びついた剣がボロボロに砕けるのではないかと怖くなったのだ。
ローゼリンデはそれを、力づくで抜いたんだろうか。
「ロージィが闘技大会で使っていた魔剣って、聖剣のことか?」
「知るか」
それよりも、この重たい岩を再びふたりで運ばなければならないことのほうが大問題だ。
しかし、幸いなことがひとつだけある。
前回ここへ運び入れた時は、誰にも見られぬよう細心の注意を払いながら王城の一室から地下のここまでずっとふたりで運んだ。
今回は、廊下を抜けた扉の外まででいい。
聖剣はたしかに抜けている。この目で見た――そう証言する者が多い方がいいだろう。
だから扉から先は、見せびらかすように力自慢の騎士たちに運ばせればいい。
「せーので持ち上げるぞ」
「せーの!」
双子の王子たちは阿吽の呼吸で岩を持ち上げた。
王子たちから騎士へ渡された聖剣の台座は、王城の庭園の一角に運ばれ公開された。
さすがに一般庶民を王城内に気安く立ち入らせることはできないため、新聞各社の記者を呼んだ。
「見ての通りだ。何か文句のある者がいれば、申し出てみよ」
国王が得意げな笑みを浮かべて台座の横に立つ。
かたや財務大臣は、悔しそうに顔を歪ませた。
台座には国王が血の契約を施し、偽物を造れないようにしてある。
まさか勇者が聖剣を抜けないとは、誰も想定していなかったからだ。
そのせいで先週までエドガーたちは、このように見せてみろと言われる事態になることを憂慮していた。
「陛下もお人が悪いですな。そうであれば、もっと早く公開されればよかったでしょうに」
「噂が市井にまで広がっているとは、つゆほども知らなかったものでな」
うそぶいて笑う国王に一礼をして、財務大臣は早々に立ち去っていく。
タヌキ同士の化かし合いを制した立役者はもちろん――。
「ロージィが起こした奇跡だな」
エドガーが囁くと、ロバートは片眉を上げて微笑んだ。
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