第5話 預言者
俺は神を信じていない。元の世界でのていたらくを考えると、神がいたらもう少しマシな人生を歩めていただろう。と、いうのは落ちぶれた人間の言い訳であることは分かっている。さすがの俺も馬鹿じゃない。
神を信じる信じない以前の問題で、神にすがるほど切羽詰まっていなかったな。それが一番の問題でもあったのだが。ひどい現実でも、打開したい気持ちがあれば真剣に神頼みもするだろう。そういった点でも俺の世界に神はいなかった。
「神はいますよ。」
真っ白い世界にいた。どこまでも続くような世界ではない、オフィスの会議室のような部屋。天井では棒状の蛍光灯がまぶしく点灯している。正面にある長机の向こうには人間が二人座っていた。片方は見覚えがある、手続きをしてくれた女性職員だ。
もう一人は茶髪の清潔感のあるスラっとした女性で、笑顔でこちらを見ている。そして先ほどのセリフを吐いてきた。
「申し遅れました。わたくし、こういうものです。」
渡された名刺には事務局長の文字が見えた。どのくらいの地位の人かは分からないが、多分偉い人なのだろう。とりあえず受け取り、軽く低頭する。この人が神なのだろうか。
「急にお呼びたてして申し訳ありません、新しい世界での生活はいかがですか?二日間のんびり過ごされていましたね。」
目的もなく新しい世界に飛ばされて二日間しかたっていなのに、なにを知ったように言うのか。そしてなぜ俺の二日間が、当たり前のように盗み見られているのだろう。不愉快極まりない。
事務局長は何かを話しかけてきていたが、正直何を話しているのか頭に入ってくることは無かった。それよりも手続きをした職員が何を話すわけでもなく、ただそこに座っているだけなのが気になった。彼女は何をしに来たのだろうか、手続きをした職員だから同席しているだけの可能性もある。
目を合わせようにも、彼女は徹底してこちらを見ようとはしなかった。
「目的もないとアナタ、あの村で一生ジャム作りでもするでしょう。なので勝手ながら期限と課題を作らせていただきました」
何も話を聞いていなかったが、さすがにこれは聞き流せなかった。期限ってなんだ。期限を過ぎるとどうなるのだろうか。
「期限は明日から一年間、一年後また同じように夢に出てきます。そこで課題の達成ができているかどうかを確認します。」
「課題はそちらの用紙に書かせていただきました。」
一枚のコピー用紙を受け取り、内容を確認する。
俺はそこに書かれている情報にひどく動揺した。
「一年。もし課題がクリアできなければ、アナタの魂は虚無へ向かうことになります。転生もせず、快適とは程遠い世界を数億年かけて巡り消えてゆくことになるでしょう。どうです、やりますか?」
やらないわけがない。たとえクリアできなくても、それでも可能性があるのであればやるしかない。
「では、一年後。いい報告が聞けるよう楽しみにしています。」
事務局長と受付職員は席を立ち、部屋から出て行く。俺は課題の書かれた紙をもう一度手に取り、名刺と一緒にクリアファイルに入れて会議室の扉を開けた。
二年前に元の世界で死んだ”七瀬 愛花”を探すこと
【第5話 預言者】
異世界とひねくれ者 @DEMI_PEN
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