異世界とひねくれ者
@DEMI_PEN
第1話 異世界トラック
初夏。梅雨が終わり、街路樹にひっついたセミがうるさく鳴き始めた時期。抜けるよな青空と新緑のコントラストが目に痛い。夏の爽やかな景色だが、俺には少し眩しすぎる。アスファルトの照り返しに身を焼かれながら、安いワンルームアパートを目指した。
今は大学4年、今の時期に内定のひとつも持っていない。本来順調にいけば友人と同じように充実した大学生生活を送り、いくつかの企業から内定をもらっていたのだろう。だが俺は内定どころか単位すらまともに取れておらず、卒業すら危ういのだ。
キャンパス内はそういう”順調にうまくやってる”奴らが、キラキラと夏の計画を立てていたり楽しそうに過ごしているのが視界に入ってくる。今の俺がそんなものを見たらひどく惨めな気持ちになるだろう。火を見るよりも明らかだ。
先ほど友人という単語を使ったが、俺には友人なんていない。入学当初はいたのだが、ちょっとした事件をきっかけに疎遠になってしまった。学業もやる気がなく、親には学費を支払ってもらっている。しかし生活費は自分でどうにかしろということで、仕送りなどは一切受けていない。なので今日も夜勤アルバイトをして、かえってきたところだ。
家賃や光熱費、最低限の食費でもらった給料のほとんどが消えてゆく。アルバイトも最低限しかしていないので、あたりまえの話だが。少し残った金は煙草やパチンコへ消えていった。運も無いのでギャンブルで一発当てる様な事もなく、ここ数ヶ月は安いカップ麺しか口にしていない。
空腹を煙草でごまかそうとポケットへ手を突っ込んだ。あと一本残っていたと思ったが、手に握られていたのは空の箱だった。空腹とニコチン切れ、暑さ、セミの鳴き声、今の自身への不甲斐なさ。全てにイライラし始めた。このまま何かしょうもない犯罪でも犯して刑務所に入れられようかと考え始めたその時。
大きなトラックが俺をひき殺した。
無音、何も聞こえなかった。あんなにうるさかったセミの声も、トラックとぶつかった音も。きっと即死ってやつだったんだろう。
じいちゃんの葬式の時、葬儀屋が”耳は最後まで聞こえていると言われています”なんて言ってたのを思い出した。全然聞こえないな。寿命とトラックにひかれて即死だと違うのか。
死んだらどこへ行くんだろうな、少なくとも単位や就職を心配するような世界じゃなきゃいいけどな。
【一話 異世界トラック】
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