第2話 紅の鬼とマルス

あれから、三年、俺は十八歳になった、いつもと変わらない、平穏な日々が続いている、そして俺の人生には、大きなイベントが起きようとしている、俺は今日、俺の恋人である美咲に結婚を申し込む。

 

 美咲との出会いは、八歳の時に遡る。


 昔の俺は病弱で、気が弱く、体も葉っぱの枯れた枝のようだった。そんな俺は勿論、この村の子供の間ではいじめの標的だった、最初は軽くこずく、バカにするなどと軽いものだった、だが子供とは残酷な物でやり返さない、やり返す力もない、俺に対するいじめはどんどんエスカレートしていった、こんな小さく何もない村では、いじめなど子供の喧嘩としか捉えてなく、罰が降らなければ人は調子づいてく、そして何より放任主義と言えば聞こえは良い物の、結局はただの無責任である、そんな村と大人たちが、こいつらの人格を形成した。


「やめてよ、なんで僕の事を殴ってくるんだよ、僕は君たちに何もしてない、じゃあないか」

 日が経つにつれて、エスカレートする、暴力に耐えかねた俺は抗議の声を上げいじめっ子を突っぱねた、だがそれが幼稚な奴らの、感情をさらに刺激してしまったのだろう。


「あっ?俺の玩具の癖して、なに反抗的な態度取ってるんだよ、大人しく殴られてばいいのに、もういい、お前らそいつのこと抑えてろ」


 取り巻きは俺を木の下まで連れてきて、手を押さえる、いじめっ子は木に登り始めた、幼い俺にもこいつらが、何をしようとしているのか想像がついた。


「二度と反抗的な態度取れないようにその腕使えなくしてやるよ」


 いい意味でも、悪い意味でも、純粋な子供は、加減を知らない、奴が本気であることは簡単にわかった。

「僕が悪かったから、やっやめてよお願いだから、やめてぇーー!」


 次の瞬間俺を取り押さえていた、取り巻きがグエっと声を上げ、俺の視界から消えた。


「ちょっとあんた達何してるのよ」


 一人の少女がそこに立っていた。取り巻きは、木の横でぐったりしている。如何やら、蹴りとばされたようだ、その子は村一番のおてんば娘で、喧嘩ばっかりしては、男や女、またしては大人も、みんな関係なく、ボコボコにする事で有名な暴力女だ。あんなに乱暴で可愛げがないなんて、嫁の貰い手なんて見つからないと、よく彼女の母が僕の母と話しているのを聞いたことがある。でも僕にはそんな彼女の暴力性はとても気高く凛々しく、美しく映っていた。


「いきなり何すんだよいくら女だからって容赦しないぞ」


 いじめっ子は、取り巻きを起こし、すぐに彼女を取り囲んだ。


「容赦しないってなによ、こんな弱そうなやつを三人がかりで虐めるような奴らに、私は負けないわ、かかってきなさい」


 いくら彼女が強くても、男三人相手に女子が勝てるわけないと思っていた、だが勝負は数分で着いた。


「何よ、口ほどにもないわね」


 まずは、いじめっ子の顔面に正拳突きを放つと、呆気に取られた取り巻きに地面の砂を蹴り上げ目潰し、そのまま跳び膝蹴りをかまし、最後に残った一人は恐怖で後ろに後退していたが、彼女が逃すはずもなく、容赦なく溝落ちに蹴りをかましたさっき蹴られたこともあってか、青い顔をしながらしゃがみ込んで動けないようだった、終わったと思ったが、そこに彼女は踵落としを入れた、やる事が酷い

「大丈夫?体中ボロボロじゃあない、きて家まで送るわ、あなたの名前は?」


「まっマルス、北村マルス」


「マルス?良い名前ね私は美咲、紅美咲よろしくね」


 紅葉の様に、真っ赤に染まった髪を持つ彼女に、ぴったりな美しい名前だと思った。これが僕と美咲の出会いだった。


 それから、僕と彼女は、二人で遊ぶ事が増えた、彼女は優しくはあるが案外早く手が出る。一回口喧嘩した時は、ぼくは口を滑らし、彼女のアッパーを喰らい、一メートルほど意識も身体も吹き飛んだ。そんな事があっても、いつも一人だった僕にとって、とても充実した時間だった、そしていつも通り二人で遊んでいるある、日僕は一つの疑問を彼女にぶつけた。


「ねぇ美咲、なんで君は僕なんかと、一緒に居てくれるの?」

「なんでって、特に理由なんてないわ、ただ貴方といると、居心地がいいのよ」


 いつも凶暴で男らしい笑みを浮かべる、彼女からは想像もつかない様な優しい笑みで、そう言われた。

「ただ理由があるとするなら、貴方だけだったから、私のこの赤い髪を怖がらないのも、馬鹿にしないのも」


 僕は差別という物が理解できなかった。同じ人の形をしているのに、少し色や考えが違っただけで攻撃的になったり、仲間はずれにする、行為はとても愚かな事だと、わかっていたからだ。でも確かに少し赤みのある茶色い毛は見た事あっても、彼女のように真っ赤な髪など滅多に、いや僕は彼女以外は見た事がない。


「私のこの髪を見るとね、皆んな鬼だとか、悪魔だとかって言うの、それで私は馬鹿にされないために強くなったわ、私を差別する人間に負けない様に、でも、そのせいで人は更に離れていったわ、暴力を振るっても離れて行かなかったのは、貴方だけよ」


 なるほど彼女の暴力性は、その環境が作り出した物だったのか、確かに暴力はいけない事だが、彼女のように正当な理由の上で成り立つ、暴力は決して悪い物ではないと、同時にこう思った。


「カッコいい」

「えっ?」


「美咲はかっこいいね、僕なんていじめられても、耐えるばっかりで、美咲があの時助けてくれなかったら、今ここに居ないかもしれない、でも美咲は負けずに自分一人で道を切り拓いたんだからかっこいいよ」


「貴方は私が怖くないの?」


「確かに殴られたりするのは痛いけど、それでも僕は美咲が誰よりも優しい事を知ってるから怖くないよ、あの時助けてくれた美咲は僕にとってのヒーローなんだよ」


「マルスは私から離れないで一緒に居てくれる?」

「当たり前だよ僕は何があっても美咲から離れる事はないよ」


「グスッ あっありがとう、ほんとうにありがと」

僕はその時彼女が泣くのを初めてみた。


 それから、五年後とある事件が起こるそれが、僕と美咲の関係を大きく変えた。


 俺はいつも通り仕事を終え、美咲の家に向かっていた、美咲の家に着きドアを叩こうとすると、美咲の母が丁度出てきた、おかしい、いつもなら美咲が主人が帰ってきた、犬のように突っ込んでくるのに、美咲の母によると美咲は買い物に行っているらしい、いつもなら三十分ほどで帰ってくるが、二時間経っても帰ってこないので心配になり探しに行こうとしていた所だと。


 俺は何か嫌な予感がしてならなかった、俺と遊ぶ約束をしている時は、一回も時間に遅れた事などなかった、美咲が時間に遅れるなんて、俺は美咲の母と一緒に美咲を探しに町に出た。


 俺は美咲が買い物に行ったという精肉店から訪れた。


「すいません、このような少女が、ここに来ませんでしか?」

 俺は美咲の写真を肉屋の店主に見せる。


「あっこの子かい、この子なら一時間ちょい前に、この店にきて、あの路地を抜けてったよ」


 俺はその路地にて聴き込みを始めた。

「すいません、この子をここら辺で見ませんでしか?」


「あっその子ならサーペンズに絡まれてたな、酷い奴らだよ、女の子一人相手に五人で喧嘩を吹っ掛けるなんて」


 サーペンズとは、ここら辺では有名な不良グループだ。未成年の子供達の集まりで、喧嘩や落書きをする子悪党だったが。最近は窃盗に強盗、さらには殺人にまで及ぶ、犯罪者集団だ俺はもうなにがあったのかは大体理解した。


「そいつらは何処に行きましたか?」


「坊や気持ちは分かるが、行かない方がいい、奴らは子供だが、並の犯罪者よりもタチが悪い、未成年である以上、警察も簡単には手は出せない、その女の子は可哀想だが諦めた方がいい」


「関係ない、僕は助けに行くだけです、場所を教えてください」


「わかったよ、俺はどうなっても知らねぇからな、何があっても恨むなよ、奴らは港の廃倉庫を溜まり場にしてる、多分そこだろう」


「ありがとうございます」


 そう言い残すと俺はそこにメロスの如く走っていった。


美咲視点


 油断したまさか五人片付けた後に、後ろから殴られるなんて、倉庫の柱縛り付けられ、身動きは取れないし、この不良どもはなんたって私なんかを誘拐したんだか。


「あんたら誰よ、何か私に恨みでもあるの?」


 そう言うと薄暗い倉庫の奥からリーダーぽい輩が出てきた。


「あっ恨みだと、あるね、ありまくりだよ五年前お前に負けたあの時から俺は、負けた悔しさで、おかしくなりそうだった、俺の玩具だったマルスも俺に反抗して来るようになったし、取り巻きどもも、女に負けた俺を雑魚呼ばわり、俺の地位は地に落ちた、お前のせいでな美咲」


 そう叫ぶように話す、奴に私は見覚えがあった。


「あっ!あんた、誰かと思えば五年前、私にボコボコにされた、いじめっ子じゃない、雑魚呼ばわりって、実際雑魚なんだから、事実でしよ」


「黙れ、俺はずっとお前達に復讐するために、五年間計画を練って来たんだ、俺はサーペンズを作り、この町の不良として頂点になった、この軍団を使い俺はこの町の支配者になる、その前に俺に敗北を刻みつけた、お前らに復讐する事によって、俺は過去を乗り越える」


 私は初めて人に対して恐怖心を覚えた、奴の狂気的な目は、とても十代少年がしてて、いい目ではない、あれは凶悪犯罪者がするような、ドブのように濁った目だ、それでいて、妙にギラギラ光っている。


「復讐って何をする気よ、まさか私を殺すつもり?」


「殺す?そんなバカか、そんなの苦しみが一瞬じゃあないか、俺はお前達に永久に苦しんで欲しいんだよ、だから考えたんだ、どうすればお前らが一番苦しむかってな、お前マルスの事が好きだろ?」


「!!」

「図星か」


「それがなんだって言うのよ、それが分かるなら恋愛相談でもやったらどう、向いてるわよ」

「そうやって、強がってられるのも今のうちだけだ、お前にもマルスにも最悪の事をするつもりだからな」


「何をするつもりよ?」

「時期にここにマルスが来るだろう、その時お前が大好きなマルスの前でお前を汚してやるよ、マルスはどんな顔するだろうな?俺に対しての憎悪の顔かそれとも汚されたお前を拒絶するかもな、楽しみで興奮がとまらねぇよ」 


 私はその言葉を聞き体中が震えた。


「お願いだから、それだけはやめて、いや、やめてください、私が悪かったです、なんでもしますからそれだけは」

 私らしくない弱気な言葉が、私の口から溢れる、私はどうなろうと良い、でもマルスから拒絶されるのは、嫌われるのだけは、絶対にいやだ。


「そうこう言ってるうちに、大好きなマルスが到着したみたいだぜ」



マルス視点


 俺は港と廃倉庫に到着するとドアを蹴破った。


「美咲大丈夫か?」

「マルス危ない!!」


 その声と同時に、俺は扉の死角にいた、不良にバットで殴られていた。


「おうマルスやっと来たか、心配しなくても美咲ちゃんならここにいるぜ、今可愛がってあげるから、お前はそこで見てろよ、こいつは五年前のあの時から俺からマルス、お前っていう玩具を奪ったなら、この女を俺の玩具にしても良いよなぁ。おいお前らそいつを抑えておけ」


 不良達のボスは、五年前に俺の事を虐めてた奴だった。俺は彼女にこれから何が起こるかわかっているが、さっき殴られたダメージと不良達に抑えられてるせいで動けない、クソ。


「やだ、やめろ、お願いマルス見ないで」


「良いねぇぇその表情、とてもそそるね、おいマルス見てろよお前の大事な、大事な、美咲ちゃんが汚される所をよ。大丈夫俺は優しいから、俺の番が終わったら、子分達にも相手させるさ一回きりじゃあつまんねぇからな」


 クソ動け頼むから動いてくれこのままじゃ美咲が俺のせいで美咲が。


「やだ、やめてぇぇぇ」








 その声と同時に、俺を抑える不良どもな吹っ飛んで壁に叩きつけられていたのだ、いや俺が叩きつけていた。 


「あっなんだ、彼女のピンチに力が覚醒したのか言うのか?まるでアニメの主人公だな、でもなこっちには、四十人も兵隊が居るんだよ、お前らやっちまえ」


 俺は向かって来る不良の軍勢を一人、また一人と、叩き潰していった、産まれて初めて振るった暴力、それはとても、いつもの自分からは思いもつかない暴力だった。


「お前なんなんだよ俺の手下は四十人はいたんだぞ、それをたった一人で化け物、いや鬼」


 相手の返り血で真っ赤に染まった、俺はまさに鬼のようだった。俺は最後の一人を片付けるために、一歩、また一歩と前に出る。


「やめろ俺が悪かった、悪かったからこっちに来るな、もうお前にも、美咲にも手を出さないだから」


 俺は正拳突きを奴の顔面に叩きつけると、倒れた奴に跨り奴が、静かになるまで殴り続けた。そして奴が、自分の血液でブクブクと変な呼吸をしているのを横目に、俺は地面に倒れ込んだ、あまりにも血を流しすぎた。


「マルス!あぁこんなに血まみれですぐに病院に運ぶから」


 美咲が俺に駆け寄ってくる。


「大丈夫だよ、少し疲れただけ、それよりも美咲が無事でよかっ…た」


 そして俺の意識は闇に消えた。


 目が覚めると病院のベッドにいた。そこからいろんな人が来て、聞いた話によると、サーペンズはあの後、全員刑務所行きになったらしい、いくら未成年でも、殺人まで犯せば大人も守りきれないのだろう。そして美咲もお見舞いに来た。


「マルスごめんね、私のせいでこんな、こんな」


 泣いてる彼女を見るのはこれで二度目だ。


「大丈夫だって、命に別状はないし泣かないで、それに美咲は何も悪くないんだし」


 そう言うと彼女はまた話し始める。


「マルスは私から離れた方がいいと思う」

 彼女に突然こんな事を言われ一瞬固まった、けど俺は、すぐに聞き返した。


「なんで?」


「だって私のせいで、こんな事に巻き込まれて、それに、これからも私と関わってたら、周りから白い目で見られるわ、だから私と離れ、」


 僕は泣きながら。そう言う彼女を抱き寄せキスをした。


「僕は美咲と離れる気はないよ、だって約束したでしょ、何があっても美咲から離れることはないって、だから僕と付き合ってください」


 しばらく美咲はポカンとし、彼女の真っ赤な髪以上に、顔を赤く染めこう言った。


「わわわ、わったしこそよろしくお願いします。でも本当に私でいいの?暴力的で髪の毛も鬼みたいだし」


「僕はそんな美咲だから好きなんだ、その真っ赤な紅葉のように染まった髪の毛も、その君の暴力性の中にある優しさも、僕はそれに救われてきたんだよ。一人だった僕を連れ出してくれた君のおかげで、僕は強くなれたんだ」


 これが俺たちの馴れ初めだ、長くなったが、その恋人の美咲に十八歳の俺は結婚を申し込む。断れるかもしれない、恐怖と結婚した後の幸福な生活を想像して、一喜一憂する俺を皮切りに美咲はきた。


「それでマルス大事な話って何?」


「美咲君に伝えないといけない事がある、美咲、君がいると、どんなに辛い時でも、苦しい時でも、俺は頑張れるんだ。そんな君と一生を共にしたい。結婚してくれるかい?」


美咲は目に涙を浮かべこう言った


「遅い遅すぎるよ、」


 僕はその言葉を聞いてギョッとした、性格がいくら暴力的でも、美咲はかなりの美少女だ、俺がこんなに告白するのに時間をかけてるうちに、何処かの貴族とでも、結婚が決まったのかもしれない、俺はなんて言う事をしてしまったのだろう。そんな事を考えている俺をよそに美咲は言葉を続ける。


「もうずっと待ってたんだからね、不束者ですがよろしくお願いします」


 あっなんだ遅すぎるとは、そう言うことか、確かに美咲には待たせすぎたからな。


「ごめん、でも俺がしっかり一人で美咲を支えられるようになってから、結婚したかったんだ」


「謝らないで、今私すごい嬉しいわ、今見てる景色が夢じゃあないかと思うほど」


「夢なんかじゃあないよ」


 そうして俺は美咲を抱き寄せた、その時腰に手を回し尻を揉んだら彼女に殴り飛ばされた、いつもより殴る力が弱いから、これは彼女なりの照れ隠しなんだろう。


 そうして俺たちは結婚式の日取りと場所を決めた、結構式は三ヶ月後に俺たちの育った村で慎ましく、それでいて温かい結婚式を挙げる事にした。


 この幸せがいつまで続いて欲しいと思っただがマーレンに支配されたこの国はとても残酷だった。

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僕の宗教戦争 頭カカエル @toukakaeru

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