5

「ねえ、父さん。今年はサンタさん何プレゼントしてくれるのかなあ?」


「さあ、何だろうね?聖が欲しがってたやつじゃないかな?」


なんて、サンタさんがいるって信じてるふりをする僕はなんて偉いのだろうか。そう、僕はサンタさんの正体が父さんだってことを、とっくに知っている。去年のクリスマスの夜、僕の枕元に父さんがそっとプレゼントを置く瞬間を見てしまったからだ。​

今年のプレゼントは前に父さんにリクエストした恐竜の図鑑に違いない。僕は早く図鑑を読みたくて、はやる気持ちを抑えるのに必死だった。


​スピーカーから流れるクリスマスソングに合わせて、お母さんが歌うクリスマスの歌。僕も父さんも幸せの音色に包まれながら、僕らはリビングで、今夜のクリスマスパーティの準備をしていた。

父がシャンメリーの栓を抜くと、ポンッと軽い音が鳴って、勢い余ったコルクが天井に当たる。なんてことのない光景に僕らは笑いが止まらなかった。


​その直後、寝室の方からガシャンと何かが割れる音が聞こえた。


「なんだ?なんか落ちたか?」


「あなた、見てきてよ」


「あ、ああ・・・・・・」


父さんが様子を見に行こうと立ち上がるのと同時に、リビングに不審な男が入ってきた。男はフードで顔を隠しながらも、見るからにやせこけていた。荒く息を吐きながら、右手には鈍く光るナイフを握っている。まっすぐにこちらを見つめる目は、飢えた獣のようにぎらついていた。


「お前、俺が誰だか分かるか?」


男の目は充血し、狂気と怯えが入り混じっていた。

​父さんが僕を庇うように前に出る。


「やめてくれ、何が目的なんだ?金か?金ならやる。だから、頼むから乱暴なことだけはやめてくれ」


「そうだ、金だ。金がいる。だが、お前は。お前だけは・・・・・・」


男は一切の躊躇なく、父さんへとナイフを突き立てた。父さんはうっと呻きながら大きな音を立てて床に倒れた。男は父さんに馬乗りになって、何度も何度もナイフを突き立てる。ナイフが抜かれる度に血が噴き出し、父さんの口から血の泡が出ている。父さんの温もりが失われていくのを、僕はただ黙って見ていることしかできなかった。


​「何してるの、この人殺し!」


母さんが僕を後ろに突き飛ばし、男に飛びかかろうとした。


「お前も死にたいのかっ」


だが、男は容赦なく母さんの胸にもナイフを突き刺した。

男がナイフを力任せに抜き取ると、母さんの胸から勢いよく血が噴き出した。

二人分の赤い鮮やかな血が、リビングの絨毯を濡らしていく。真っ赤に染まった絨毯は、まるで真っ暗な闇のように見えた。赤色の面積がどんどん広がっていく。


「父さん、母さん・・・・・・」


呆然としている僕を横目に、​男は震える手でリビングの引き出しを荒らしていく。3人で準備したパーティの飾り付けが引きちぎられていく。母さんが用意してくれたストロベリータルトはぐしゃぐしゃにつぶれ、シャンメリーの瓶は無残に割れている。

​もう動かない両親の身体をツリーの明滅が照らし出す。僕の幸せな世界は、たった数分で壊された。


「現金は・・・・・・これしかないのか?」


​男がリビングの棚から、現金が入った封筒を見つけると乱暴に鞄に突っ込む。男はナイフを握ったまま、立ち尽くす僕の方を見た。


​「ごめんよ。ごめんよ、坊や。君の父さんが悪いんだよ。俺をクビになんかするから・・・・・・」


男の声は掠れていた。その目は涙で濡れていて、どこか安堵したような色も浮かんでいた。

「おじさんは君の父さんから、仕事を奪われたんだ。だから俺が今度は奪い返した。……娘に、聖子にクリスマスをさせてあげたいんだ」


​男はそう言いながら、逃げるように出て行った。

僕は生かされた。きっとあいつのきまぐれだったのだろう。もしかしたら、あの男の娘と、聖子と同い年くらいの僕を手にかけるのを躊躇したのかもしれない。

聖子。

僕はその名前を決して忘れない。

その女のために、僕のすべては奪われた。僕の両親の命が、世界で一番幸せな時間が、たった一人の少女の笑顔のために奪われたのだ。

​こうして僕のクリスマスは血に染められた。

​僕の誕生日は、絶望に埋め尽くされた。

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