爆薬
燕子花様
蛇頭
人間の失敗の歴史は、アダムが知恵の樹木の果実を食したことから始まった。
蛇の誘惑に負け、神の忠告に反し、自らの裸体の恥を思い知り、終いには楽園からの追放を余儀なくされた。原罪、という呼び名は非常に適している。
それから長い歴史を経ても、いまだ人間は蛇の誘惑にそそのかされ続けている。あの骨董品店から古物を盗んでみたくはないか。人を苦しまずに死に至らしめる薬の調合法を見てみたくはないか。
私は、ここでいう蛇を、人間の「知」に対する欲求、探究心そのものであると解釈する。
まだ見ぬ世界を知りたい。この世の真理に辿り着いてみたい。
これらの漠然とした情動は総じて愚かといえる。心に「知」という林檎の甘い蜜が垂れたその瞬間から、徐々に人間は腐ってゆくのだ。何も知らなければ、永遠に新鮮なままであれるというのに。
しかし、どうも一つ看過できぬ点がある。
アダムは果実を口にして、罪を背負った。だがその過程で、彼、ひいては我々人間は善悪を知った。ともすれば、アダムは自らが楽園を追い出されてでも、善悪を知ることを選んだ、と言い換えられるかもしれない。
「知」への探究心が惨事を招いても、知ろうとすることをやめない。ただ蛇の声に従うままに、罪をも受け入れようとする。その姿勢は、果たして愚かなのか。
私の結論はこうだ。
無知であれ。「知」とは、何より恐ろしい爆薬なのだ。
仮にその火花が美しく見えたとしても。
「はあ……なんだ、この箱?」
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