泥棒さん

成 長青

泥棒さん

 鍵穴に針金を入れる。手に伝わる微かな感覚を頼りに、微調整した。ガチャ。「しめた」目と口の部分に、穴のあいた覆面の中で、口角が緩んだ。そっとドアノブを降ろし、ドアを少しだけ開けた。そしてその隙間から、スケートリンクに足を下すかのように、そっと中に入った。他人の部屋だった。入ってすぐ左にあるドアを開ける。トイレと風呂があった。一応見回したが、金目のものはなさそうだったので、閉める。フローリングの床を歩くと、部屋の全貌が見えた。中央に座椅子と机。その奥にベッド。ベッドの横のラックには服が何着かかけられていた。小奇麗な部屋だ。

 そんなことはどうでもいい。すぐに部屋を漁った。小奇麗な服を数着取った。他に目ぼしいものはない。チッ。舌打ちをして、歩いて部屋を出た。

 そのまま歩いて、自分の部屋に帰る。ベッドの上でゴロゴロしながら、スマホを構った。腹が減ったので、立ち上がって、コンビニに出かけた。外は暗い。その帰り道、カップラーメンを持って歩いていると、何か黒い物体が動いていた。目を凝らすと、それはクロネコだった。花に猫パンチをかまして、戯れている。二回殴っては、止まる。三回殴っては、止まる。猫パンチをかます腕は、上げたままだ。自分で殴って花が揺れているのに、気にせず殴り続けていた。ふふんと少し笑って、通り過ぎた。

 鍵穴に針金を差し込み、開けた。昨日のように、そっと中に入る。部屋を漁るが、今回は本当にハズレだった。金目のものがない。ハァ。溜め息を吐く。もう一度部屋を見回すと、机の上に花が飾られていた。なんとなく、それに近づく。花瓶からそれを抜き取り、眺めた。ふふんと少し笑い、持って帰ることに決めた。

 家への帰り道、もう一度花を眺めた。ふふんと機嫌のいい主婦のように笑い、ルンルンで歩いた。

 後ろから肩を叩かれる。後ろを向いた。「警察です」

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