恩返しが終わらない

そうざ

There's no end to Giving Back

 ――ちゃっちゃと覗けやっ!

 こっちは隙間風が吹き込む襤褸屋ぼろやの一室で、ずっと真っ裸で待ってんねんぞ。

 如何いかにも意志薄弱の朴念仁ぼくねんじんやと思うてみたら、アホ丸出しの謹厳実直、四角四面の石部金吉と来たで。

 きっと車通りのない深夜帯の横断歩道で馬鹿正直に信号が変わるのを待ちよるアホや。ベルマークを切り取る時に几帳面に枠の点線に沿って鋏を入れるアホや。

 それか逆に空気が読めへんやっちゃ。ウンコしたい時に限って長話をしようとする奴ゃ。最後に食べよう思うて残しといたイクラの軍艦巻きを、それ嫌いなら食べてやるわとか何とか言うて勝手に頬張りよる奴ゃ。

 ――こんなん言うてる間に覗けやっ、どんだけ内面を吐露させんねんっ!

 昔は百発百中やったのになぁ、あっちゅう間に覗かせたのになぁ、久し振りで勘が鈍くなったんかいなぁ、焼きが回ったんかいなぁ、すっかり小皺が増えたからなぁ……って何を言わすねん。

 このままじゃ一生お礼奉公やわ、只働きやわ、これはもう一周回って奴隷やわ。

 ――何なんっ? 障子戸の開け方知らんのっ? 自分んの間取り把握しとらんのっ?

 覗かれるまで帰れませ〜んなんてルール、誰が作ったんか知らんけど、覗くな言われたら覗かなあかんなんて、かなり高度な前振りやで。笑いのセンスないと無理やで、わややで。

 こうなったら奥の手しかないわ。ずっこいけどもう付き合い切れんわ。

「何やっ!? えぐっ! これはえぐいでぇ!」

 ――旅行でも行ったん? 頓死したん? 慢性的便秘か下痢でトイレに引き籠もり中?

「や〜ん、ホックが留められへ〜ん♡」

 ――勝負ブラやでぇ!

「もうえぇっ、もう言わせて貰うわっ、助けといてそのまま放置て、放置プレイて、ドSにも程があるっちゅうねんっ!」

 ――それでもシ~ンって!

「そっちがその気ならなぁ、こっちから開けたるわっ!!」

 ――ガラッ!!――

「……って、お前もかーいっ!」

 

 ――めっちゃ嬉しそうに飛んで行きよった。

 まんまとすかたん喰らったわ。意外にようけ居んねんなぁ、ウチみたいに人間に化けられるけったいなやからが。

 最初からや。傷付いた(振りをした)奴を助けてやって、後日そいつが人間の姿でやって来て、決して覗かないで下さいとか何とかしらこい事を言いくさって、そっからまた根競こんくらべや。いらちにはしんどいルールやでぇほんま。

 戸を開ける側か、開けられる側か。

 覗くのか、覗かれるのか。

 勝つか、負けるか。

 恩返しは終わらんでぇっ!!

 ――て言うか、恩返しって何なん?

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