不思議とミステリは相容れない。

四月一日(わたぬき)

episode1 おはようミステリ

 カレーが食べたい。

その思いが事件を呼んだんだとしたら僕は『ビーフシチュー』を選んでおけばよかったのかも知れない。


 大学一年生になって一ヶ月が経ち、今僕は講義を終えて食堂に向かおうとしていた。いつもは食堂ではなく行きつけの喫茶店で昼食を取る事が多いのだけど、

今日は「ある理由」で行かない事にしていた。

ある理由とは些細な事なので伝えない。伝えたくない。


 学食に着くと無数の生徒が昼食を取っていて、座れるスペースがあるか心配になりながら発券機にて「うどん」「ラーメン」「麺類」「ご飯類」「カレー」というカテゴリが目に入る。何故「麺類」からうどんとラーメンが独立しているのか?何故「ご飯類」からカレーが独立しているのか。僕は気になると考え込んでしまう傾向にあるらしく、この謎カテゴリが気になってしまい【発券機前にいるのに発券しない迷惑学生】になっていたのに気づき僕は急いでカレーを発券して、食堂のおかあさんへ券を渡す。

「すみません。つかぬ事を聞くのですが、発券機に書いてあるメニューのカテゴリは何故あの様なカテゴリなんでしょうか?」僕は気になった事を聞くとスタッフの方が答えてくれる。「周りの生徒が食べているメニューを見てご覧な。あと、外の看板を見れば分かるさ。」僕は言われた通りに周りの生徒達が食べているメニューを見ると

【うどん、ラーメン、カレー】この中のメニューを選んでいる生徒がざっと見るだけで9割を超えていた。あとから看板を見たら【絶品の大人気メニュー】と大きく宣伝されていて、テレビでも特集を組まれ放送されるくらい人気らしい。


 なんだかスッキリした気持ちで食堂のテラス側の席に座る。

生徒達それぞれが話す話が耳に入りながら食堂の調理の音が脳内に入り浸るこの感覚はとても苦手だ。いつもは静かな喫茶店で食事を摂るか、自宅での自炊の僕にはこの『学食堂』は合わないのかも知れない、そう想った。


 カレーを食べ終わり食器トレイを返却に向か道中、この学食のカレーがどの『市販ルー』を使っているのかが気になり考え込んでしまう。僕がよく使うバーモンでも濃くウマでもないのは確信しているのだが、スパイスカレーをわざわざ作る手間暇をとっているとも考えにくい。残る可能性は【市販のルー数個を混ぜたカレー】と想ったのだが、ここの人気メニューはテレビで特集されるくらいで、カレーは人気メニュー第二位となっているのだから、やはりスパイスやブイヨン等を使って一から作っている可能性が出てくる。この可能性は僕の【気になる心】をくすぐったのか、「今度自宅カレーを作る時は、いつもと違うルーを使ってみようかな」とワクワクと期待を心に持たせた。(スパイスカレーでない事はここだけの話)


 返却口まで辿り着くと、返却口の目の前で立って動かない生徒がいる。


「…カレーはハズレ…」


 ん?カレーはハズレ?それ以外にも何かを口ずさんでいるが聞こえない。彼が口ずさんだ事も気になるが、返却口はここにある一つだけなので混雑になっても困る。そう思い声をかける「あの、どうされましたか?」と声をかけても微動だにせず返答もない。もう一度声をかけてから肩を軽く触ると、


彼は倒れた。

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