第1話-3
「短い間でしたがお世話になりました。」
俺はそう班長に挨拶をする。
「まぁそう堅くなるなよ。班が移るだけだろ?」
「えぇ、まぁそうですが…」
「どうした?」
「いえ…その…新しい班の班長がですね…
「あ〜新任の?」
「そうです。なにかご存知でしょうか?」
別れ惜しみの空気を出しながら探りをいれる。なにか有用なモノが掴めるといいのだが。
「あ〜…………
「それがな…"無いんだよ"。」
「無い?と言うと」
「あの斎藤っていう奴?俺らも新しく課長クラスが来るとは聞いてはいたんだがそれ以外の情報はまるっきりでな。正直俺含む他の班長も警戒してるんだ。」
そういうと班長は辺りを見回し、耳打ちをしてくる。
「…ちょっとばかし外出るぞ。」
〜〜〜〜〜〜〜〜
建物の外、ここは羽田空港内にある建物なので出ればすぐ目の前は滑走路、空港施設がずらりと見える。建物の影に当たるところで班長は止まり先程の話の続きを始める。
「高橋、お前が怪しむのも無理は無い。お前はかなり仕事が出来る側の人間だ、その辺のヤツらとは明らかなレベルの差がある。」
「謙遜ですよ。」
「そういう所もだが…まぁそれでお前なら既に違和感に気づいているだろう。」
そういうと彼は折りたたまれたA4サイズの書類を渡してきた。
「何ですか、これは。」
そっと開ける。それは局員台帳の1ページをコピーしたものだった。局員の名前は斎藤 芳樹、先程来た課長代理の物だ。
「今日来た代理の台帳のページを印刷した物だ。」
「……短すぎる。」
「あぁそうだ。コイツは入ってすぐ"休職"、そして気がつけば代理になっている。代理になる前の階級は警備士長、お前と同じ階級だ。」
明らかにおかしい、俺と同じ階級で休職をしているのに復職とほぼ同時に代理になっている。ここ、内務省の警備部は警備士長の次は警備主任、統括警備長そして警備課長代理と間に役職を幾つか挟んで昇任となる。昇任には試験と実績が必要だ。しかし休職中の斎藤には実績も試験もする時間も無いはず…一体どういうことだ?
「…これは俺の見立てだが、恐らくあいつは"四課"に居た可能性がある。」
四課…内務省警備部には様々な課がある。警備業務を主に行う一から四の警備課、そして広報や人事管理などをするその他の課、中でも四課は秘匿性がかなり高く、スパイ活動もやってるとの噂の際どい部署だ。………だが、、、
「あまりにもお粗末では?」
そう、この書類。あまりにもお粗末なのである。秘匿性が高いにも関わらず誰が見ても分かる不審さが出ているのだ。
「そうなんだよな、これじゃあ自分はスパイです〜と言ってるようなもんだ。」
彼は一体何者なのだろうか?
「ったくよぉ、あの野郎が辞めたと思ったら今度はスパイかよ。ろくなもんじゃねえ…」
班長 「気をつけろよ高橋、恐らくお前は監視役としてつけられた。なにかあったらすぐ相談しろ。」
「ありがとうございます。」
そうして俺は書類をもらい班長の元を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます