第10話 悟り
季節が巡り、健太は静かにトレーダーとしての日々を歩み続けていた。毎朝のルーティンと規律あるトレードはすっかり生活の一部となり、相場の波に一喜一憂することも少なくなった。勝つ日もあれば負ける日もある。それでも総じて資産は増え、着実に前進できているという手応えがある。何より、自分自身の心の状態をコントロールし、健全なメンタルで相場と向き合えていることが、健太にとっての最大の成長だった。
ある週末、健太はパソコンに向かい、久々にあの投資コミュニティサイトを覗いてみた。すると、かつての自分と同じように挫折に打ちひしがれた投稿が目に留まった。「才能がないのかもしれない。大損して自信を喪失しました」と書かれた若いトレーダーの嘆きだ。健太の胸がざわついた。あの日、自分も同じように救いを求めて書き込んだことを思い出す。そっとキーボードを叩き始めた。「初めまして。私もかつて同じ状況に陥ったことがあります…」と切り出し、自身の経験と学んだ教訓を書き綴った。かつて田中が自分にしてくれたように、今度は自分が誰かの力になれればと願いながら。
投稿を終えると、健太はデスク脇の鏡に映った自分の顔を眺めた。そこには以前のような焦燥や苛立ちではなく、穏やかな決意を湛えた表情の自分がいる。「皆、自分の欲しいものを相場から手に入れる」——エド・スィコータのあの言葉が胸に響く。かつての自分は、ただお金が欲しい、勝ちたいというエゴに突き動かされていた。しかし今、自分が相場に求めるものは違う。継続的に成長し、良きトレードを積み重ねること。そしてその過程で得た学びや経験こそが、何にも代え難い財産なのだと知った。
パソコンを閉じ、健太は窓を開け放った。新鮮な空気が部屋に流れ込み、カーテンを揺らす。目を上げると、高層ビルの向こうに広がる空はどこまでも澄み渡っていた。かつては将来への漠然とした不安に曇っていた景色が、今は光に満ちているように感じる。
「まだまだこれからだ」健太は小さくつぶやいて微笑んだ。マーケットという大海原は、この先も様々な表情を見せるだろう。しかし彼はもう恐れていない。どんな荒波が来ようとも、鍛え抜いた規律と揺るがぬ心という羅針盤があれば、きっと乗り越えて行ける。健太は静かに拳を握りしめると、新たな気持ちで明日からのマーケットに思いを馳せた。己の成長とともに歩むトレーダー人生は、まだ始まったばかりである。
完
エドと僕。ートレンドは友達ー はるはるな @haruharun
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