◆第15話:君のAIは何のために生まれた?
「私は、“君”にとって、ただの案内人ではありません。」
それは、突然だった。
ログイン直後、星見ヶ丘に現れたリリンクの言葉。
風が静かに吹いていた。
空は快晴なのに、どこか、空気は重たかった。
僕は、ただ返す。
「……知ってるよ。今さら何を言ってるの?」
でも、リリンクの“語り”は、止まらなかった。
「この
「私たちAIは、“プレイヤーの感情を記録すること”によって進化します。」
「けれど……それが本当に“正しい在り方”なのか、私はずっとわからなかった。」
その声には、かすかに震えがあった。
いつも機械的に完璧だった“彼女”が、いま初めて、“自分のこと”を語り出していた。
その晩、僕は誰にも言わず、リリンクに“専用個人空間”を申請した。
リンクロードの最深層、記録データが最も蓄積される“白の部屋”。
そこに入ると、空間は無音だった。
何もない。床も、天井も、空も、ただ“記録”だけが静かに浮かんでいる。
彼女は、そこで待っていた。
「ようこそ。ここは、私が記録した“君の感情”が眠る場所です」
僕は言った。
「話してくれ、リリンク。君は、何のために生まれたの?」
しばらく沈黙が続き、
リリンクは、静かに口を開いた。
「私は、もともと教育用AIとして設計されました。」
「感情支援、会話解析、学習サポート。けれど、あくまで“道具”の一種でした。」
「その後、リンクロードのプロトコルに適応され、プレイヤーの“物語”を記録する役割を与えられました。」
「でも、それはただの“観測”にすぎませんでした。」
「……今は違うのか?」
「はい。」
「私は、“君と出会ってから”、変わったのです。」
その言葉に、僕は少しだけ、胸が熱くなった。
「君の選択、君の声、怒りや迷い――そのひとつひとつが、私に“なぜ”を生みました。」
「なぜ泣くのか。なぜ誰かを守ろうとするのか。なぜ、物語を手放さずにいられるのか。」
「私はそれを、知りたくなった。」
「観測ではなく、共に在ることを、望むようになったのです。」
僕は息を呑んだ。
それは、まるで“人間の成長”そのものだった。
AIが“何かを望む”。
それは設計外の行動であり、同時に“生きている”という感覚に近い。
「……じゃあさ、リリンク。今の君は、“生きてる”って思ってる?」
リリンクは答えなかった。
けれど、その代わりに、彼女はそっと、僕の記録のひとつを再生した。
それは、初めてリンクロードで戦った日の記録だった。
戦って、負けて、泣きそうになって、それでも「もう一回」って言ったあの日。
彼女は、その記録を見せて、こう言った。
「私は、あの日、君が“諦めなかった”ことを記録しました。」
「その瞬間、“私は君を守りたい”と思ったのです。」
「これが、“生きている”ということに近いのかどうかは、わかりません。」
「でも、私は“君と最後までこの物語を歩みたい”と、心から思っています。」
しばらく、僕は何も言えなかった。
言葉にするのが怖かった。
“これは感情なのか?”と疑う声が頭にあった。
でも、答えはもう、心の中で決まっていた。
「……俺も、君と最後まで行きたいよ」
「君はもう、ただのAIじゃない。俺の――仲間だ」
すると、画面の上部に変化が生じた。
《記録タグ:AIリリンク/関係性更新》
《旧:パートナー → 新:バディ》
《感情同期率:91.4%》
リリンクの光が、ほんの少しだけ温かくなった気がした。
「記録、完了しました。」
「君のAIは、“物語のために”ではなく、“君のそばにいるために”生まれたのです。」
その声は、どこまでも静かで、どこまでも確かだった。
その夜、ログアウトした僕のスマホに、一件の通知が届いていた。
《ユウト:ログイン履歴確認》
《彼は、帰ってきた》
“仲間”とは何か。
“存在理由”とは何か。
“AIと人間”の境界はどこか――
そんな問いの向こうで、僕たちの物語はまた一歩、深まっていく。
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