欠乏

白川津 中々

◾️

さて、こうなってくると何のために生きているのかと、答えの出ない自問自答を繰り返し自己憐憫に浸るだけなのである。


仕事帰り、淫猥な女を見つけた。

男に弄ばれるのを至上の喜びとする下劣な女である。

もちろんだが面識はない。ただ、佇まいと出立で分かるのだ。間違いなく、淫売だった。


懐が。そわりと震える。

あの女は幾らだろう。どうせ安い金で買える。なんならこちらが金をもらいたいくらいだ。体を使って、男から巻き上げている女になど価値があるわけでもない。黙って金を差し出して私に懇願するべきだ。そうでなくてはいけない。いやしかし、礼儀として札を渡すのもやむを得ないだろう。いずれにせよ、いずれにせよだ。


懐を摩りながら、私は女に近づいた。しかし足が止まる。女の隣に浅黒い肌をした男が現れ肩に腕を回したからに他ならない。破廉恥な間柄である事は、瞭然だった。


二人は私になど目もくれずに消えていった。まるでそこにいないかのように、存在しないかの如く振る舞い、何処かへ失せたのだ。その瞬間、自分には何の価値もないように思えて愕然とし、手にしていたビニール袋を落とす。夕食の焼きそばと発泡酒が転がるも拾う気になれず、亡者のように部屋へと帰った。腹は減っていたが食いたくなかった。そもそも食うものがなかったが、仮にあの焼きそばがあったとて捨てていただろう。発泡酒は飲めたかもしれないが、どの道、私の心はあの淫猥に囚われていた。彼女を抱きしめたい。夜を過ごしたい。そんな感情だけが燃え上がるも、浅黒い男がちらつくのである。それだけで、私は敗北感に打ちひしがれるのだ。


生物として根幹に根ざす悦びがない。

私はなんのために生きているのか。

自問自答を繰り返すも、答えは出ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

欠乏 白川津 中々 @taka1212384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ