第19話 レオン様♡
──《今後も俺と組め。ついてこい。わかったな?》
(……あれ……わたし、恋してる……♡)
きゅん、と胸の奥が鳴る。 レオン様のあの一言が、何度も頭の中でこだましてる。 夕暮れの森道さえ、今の私には恋愛フラグ乱立の回廊にしか見えない。
横にいる彼の背中を見てるだけで、もう胸いっぱい♡ でも、そんなフワフワの空気が──不意に、足元の小石ひとつで崩れた。
「っ……あ」
地面が傾いて、体がふわっと浮いた。
転ぶ──そう思った瞬間、強い腕が私を引き戻していた。
ぐい、と。
息を飲む間もなく、レオン様の胸元に抱きとめられる。
逞しい腕に支えられ、あっさりと体重を預ける形になってしまう。
視線が、ぶつかった。 近い、近すぎる。反則だよ、こんなの……!
(だ、だめ、こんなの、またきちゃう……♡)
そんなとき、レオン様が低い声で、ぼそりと呟いた。
「無防備すぎる……もっと危機感を持て。
このまま黙って抱いても、文句言えないんだぞ?」
──え。
頭が真っ白になる。 いま、なんて?
その腕の中で、私はすべてを委ねるようにして体を預けた。
(……レオン様なら……むしろ、ぜひ……♡)
(だって、そんなこと言われたら……もう、抱いて!今すぐ!!♡♡♡)
心臓が跳ねて、跳ねて、暴れてる。 わたし、いま、完全に落ちました♡
レオン様は、なにも知らない顔で手を離し、また前を向いて歩き出す。
「……ほら、行くぞ」
(うそでしょ……もう、なにこの人……ずるい……♡)
その背中についていく私の視界は、完全に恋のフィルターでピンクに染まっていた
◆
宿に着いたのは、すっかり日が落ちた頃だった。
入り口で名前を告げると、女将が少し困ったように眉を下げる。
「すまないねぇ、今日は混んでてね。空いてる部屋が一つしかないんだよ。二人で使うかい?」
(え、えっ……えええっ!? レオン様と同室!?♡)
ときめきの衝撃で昇天しかけたその瞬間。
「裏の物置でもいい。二部屋に分けてくれ」
レオン様、秒で拒否。
(そ、そうですよね……ですよね……でもちょっとだけ……がっかり……♡)
結局、私は屋根裏の部屋に通され、レオン様は階下の元倉庫の個室になった。
簡素だけれど清潔な部屋。ひとまず荷をほどいて落ち着いたところで、扉の外からノックの音が響く。
「……あとで話がある。下の部屋に来い」
レオン様の声だった。
◆
数分後、私は意を決してノックを返し、扉を開けた。
室内には灯りがひとつ。レオン様は背を向けていて──
「早いな。……上だけ着替えさせてくれ」
そのまま、外套を脱いでシャツに手をかける。
無造作に、ためらいもなく。
(ちょ、ちょっと待って……え、え、えっちすぎる……♡)
鍛えられた背中。肩。腕。無防備な上半身に、思考が融解する。
心臓の音がうるさすぎて、自分の呼吸の音が聞こえない。
「……座れ」
レオン様はシャツのボタンを留めながら、椅子を示す。
私はぎこちなく頷いて、言われた通り腰を下ろした。
「話って……」
「エルドさんが、お前を俺に預けた理由、聞いてないんだろ」
私は首を振る。
「……おそらく、保護と観察だろうな。変な才能持ってて、行動も危なっかしい。
敵に回せば厄介だし、潰されるには惜しい」
そう言ってレオン様は、視線を窓の外へ向ける。
「俺の訓練も兼ねてる。……最近、人と組むのを避けすぎだって、言われてな」
「そうだったんですね……」
「……最初は、今回限りで断るつもりだった。けれど、荒削りながらも想像以上に優秀だった。戦闘スタイルの相性も良い。まだまだ未熟な部分は多いが、鍛えれば必ず伸びる。だから、今後も俺と組め、一人前になるまで面倒見てやる。ただし……」
レオン様の視線が、まっすぐ私に戻る。
「……惚れるな」
「……ほ?」
「お前は若い。かわいい。もっとまともで、真面目な相手が絶対にいる。俺なんかに引っかかるな。第一、お前ちょろすぎる。危機感持て。
……抱き寄せたときも、俺が離さなかったら、あのままずっと抱かれてただろ。
さっきも、着替えてるとき、見すぎだ。笑うしかなかった」
(きゃーーー♡ バレてるーーー!!)
(やだやだやだ、恥ずかしすぎて死ぬ……♡)
(でも、それもなんか……いい……♡ 恥ずかしいの、クセになりそ……♡♡♡)
「……妹がいるんだ、遠くに。歳の離れた。レイに少しだけ似てるんだ」
「……え?」
「顔つきがな。性格は……まるっきり違うけど」
ふっと、レオン様が笑った。
わたしは、胸の奥がきゅっと締めつけられるのを感じながら、ただ静かに頷いた。
「……わかりました」
◆
部屋に戻った私は、ベッドに倒れ込む。
(あああああ……無理……今の全部、きゅん♡過ぎて……)
(抱かれてもいいって思ってたのに……だめって言われた……♡)
(でも……でも……レオン様があんな顔するなんて……)
妄想は止まらない。
でも、同時に胸のどこかが少しだけ冷えている。
過去の恋。失敗。片思い。
お花畑の裏にある、自分の現実が、わずかに顔をのぞかせていた。
──彼は、わたしのことを恋愛対象として見ていない。……それは、わかってる。わかってるけど……!
(でも、だったら、なんであんなに優しいの……)
(ずるい、ずるいよ……あんなの、好きになっちゃうに決まってる……♡)
シーツをぎゅっと握りしめて、私は天井を見つめる。
少しだけ冷静になった頭が、静かに呟いた。
(でも…………でも……こんなに簡単に落ちてちゃ、だめだよね)
深呼吸。魔力を整えるように、感情を整える。
──でも、レオン様の余韻だけは、体の奥にずっと残ってた。
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