第11話「Why don’t you’re best?」

 対魔獣防衛機構『ガーディアンズ』による、見えざる「エンプレス・モフ包囲網」が、聖歌本人のあずかり知らぬところで日夜その精度と、それに比例するかのような空振り率、そして神宮寺司令の胃薬消費量を高めていた晩秋。

 聖アストライア女学園では、数日前に華々しく、そして一部では伝説的に、またある方面では悪夢として幕を閉じたアストライア祭の喧騒もようやく過ぎ去り、生徒たちは冬の学年末試験や、間近に迫ったクリスマス祝会に向けて、落ち着いた、しかしどこか祭りの後の、甘美な疲労感と達成感を伴った学園生活を取り戻しつつあった。

 聖歌もまた、表面上は完璧な淑女として、日々の授業や友人たちとの優雅なティータイムをこなしつつも、その胸の内は、先日古美術商で運命的な出会いを果たした「いにしえの聖なるジャガーの王の毛皮の一部」と、それを元にした「ザ・ワン様をお迎えするための、至高にして究極の『もふもふ調度品』」のデザイン案で、まさに一杯いっぱい、はちきれんばかりだったのである。

 その毛皮の断片は、今や彼女の私室の最も神聖な場所――もふアン様とカイ様の寝床のちょうど中間地点に設けられた、紫檀の小さな祭壇――に、家宝の純金の小箱に納められ、丁重に祀られていた。聖歌は、毎朝その「聖遺物」に祈りを捧げ、その手触りから「いにしえの叡智」と「もふもふの波動」を吸収することを日課としていた。


 ある日の放課後。聖歌はいつもの友人たちと談笑していた。話題の中心は間近に迫ったクリスマスチャリティーバザーの準備についてだ。


「聖歌様、今年のチャリティーバザーでは、どのような素晴らしいお品をご出品なさるのですか? 昨年は、聖歌様がひと針ひと針三日三晩かけて刺繍を施されたという、『天使の涙のハンカチーフ』が、出品と同時に、まるで蜃気楼のように消え失せてしまいましたわよね。わたくし、あの時ばかりは、己の反射神経の鈍さと、お小遣いの少なさを、生まれて初めて本気で呪いましたもの」


 彩子が、昨年の聖歌様謹製グッズ争奪戦の記憶をありありと思い出したのか、ほんの少しだけ遠い目をし、しかしそれ以上に今年の出品物への燃えるような期待に満ちた目で尋ねる。聖歌の手による品は、その希少性と、常人の理解を超越した芸術性の高さから、バザーの超目玉商品となり、熱狂的なコレクターの間で、熾烈な、そしてしばしば血を見ない硝煙の立ち込める争奪戦が繰り広げられるのが恒例であった。


「ええ、彩子様、昨年のハンカチーフをお求めになれなかったのは、誠に残念なことでしたわね。うふふ、でもご安心あそばせ。今年は、少し趣向を変えまして、わたくしがこの数週間心を込めて編み上げました、最高級ベビーカシミア1200%の、触れた瞬間に天国へ旅立てそうなほどに柔らかいマフラーを数点と……それから、特別中の特別品として、わたくしの最新にして最高の、そして最も神聖なるコレクションの一つである、古代マヤ文明の叡智と、聖なるジャガーの王の魂が凝縮された、持つだけで人生が薔薇色に輝き出す奇跡のお守りを、わたくしのラッキーナンバーにちなんで、限定三個でご用意いたしましたの」


 聖歌はにこやかに秘宝を公開する神官のような厳かな表情でそう言うと、愛用のエルメスの鞄の中から、ベルベット張りの、それ自体が国宝級の美しい小箱を恭しく取り出した。そして、それを開くと、中には、例の『聖なるジャガーの毛皮の一部』の、さらに小さな切れ端が三つ、えもいわれぬ神々しいまでのオーラを放って収められていた。


「まあ、これが……聖歌様の仰る古代の叡智と聖なるジャガーの魂が詰まった奇跡のお守りですの……? なんという……その、言葉では言い表せないほどの、気の遠くなるような歴史の重みと、ジャングルの奥地の神秘的な空気、そして何よりも、触れる前から伝わってくるかのような、荒々しくも高貴な『もふもふの波動』を感じさせる、大変に……ええと、魂に直接訴えかけてくるような、素晴らしい風合いのお品ですわね……!」


 彩子は、その、一般人から見れば間違いなくなんか古くて汚れてて、しかもちょっと獣臭い毛皮の切れ端にしか見えないであろう物体を前にして、しかし聖歌の熱意と、そこから実際に放たれている不可思議なオーラに完全に当てられ、必死に言葉を選びながらも、最大限の賛辞と畏敬の念を口にした。

 響子は、遠慮なく「え、聖歌様、これ……なんか、うちのおじいちゃんが昔使ってた、熊の敷物の、一番ボロボロになってた端っこの部分にそっくり……いや、なんでもねえっす! すげえパワーを感じるっす! なんか、持ってるだけで強くなれそうっすね!」と言いかけたが、隣にいたリリィに、その小さな体からは想像もつかないほどの精密さで脇腹に肘鉄を連続で食らい、うめき声を上げて口をつぐんだ。

 聖歌は、そんな友人たちのある意味で非常に素直な反応もどこ吹く風、うっとりとした、そしてどこか遠い目をして、その「聖なるジャガーの毛皮の切れ端」を見つめた。


「ええ、その通りですわ、彩子様。さすがはお目が高い。これは先日、特別な、まさに天文学的な確率のご縁で、わたくしの元へとやって来てくださった、いにしえの『聖なるジャガーの王の毛皮』の一部なのですわ。この、一見すると無骨で、そして少々ワイルドな大地の香りのする手触り……しかし、その奥には、幾星霜の雨風をその身に受け、古代マヤの神官たちの祈りと共に生き、そして神々と交信してきた、生命そのものの力強さと、何とも言えぬ太陽のような温もり、そして宇宙の真理と、全ての『もふもふ』の根源に繋がるかのような、深遠なる叡智が、確かに宿っているのです。この聖なる切れ端を身につけていれば、きっとあらゆる災厄からその身を守り、学業は成就し、金運はうなぎのぼり、恋愛運は薔薇色の奇跡が起こり、そして何よりも、人生における『至高にして究極の、まだ見ぬもふもふ』との運命的な出会いを、光よりも速く、そして確実に引き寄せてくれることでしょう。限定三個という希少価値もさることながら、バザーでの収益は、もちろん世界の恵まれない『もふもふさん』たちの保護と、その生活環境改善のための活動に、責任をもって全額寄付させていただきますわ。うふふ、これもまた、高貴なる者の務めノブレス・オブリージュですわね」


 聖歌は、真顔で、そして一点の曇りもない純粋な善意と、絶対的な確信をもってそう力説した。

 そのあまりの熱意と、もはや宗教の教義か、あるいは古代の呪文の領域に片足どころか全身どっぷり浸かっているかのような訳の分からないご利益の説明に、友人たちはただただ圧倒され、そして聖歌様がそこまで熱く、そして嬉しそうに語るからには、きっと本当に、我々の想像を絶するような、とんでもなく素晴らしいものなのだろう……。そして、そのご利益の中に、なぜか毎回『至高のもふもふとの出会い』が最重要項目として筆頭で入っているあたりが、実に、これ以上ないほどに聖歌様らしいわ……と、半ば思考停止状態で、しかしどこか納得してしまうのだった。


(でも、もしかしたら、本当に何か特別な力が……。よし、バザー当日は、お父様に頼んで、万里小路家のSPの方々にも負けないくらいの護衛をつけてもらって、必ずやこの『奇跡のお守り』を我が手に……!)


 彩子は、聖歌のその神秘的な側面と、彼女が選ぶものの持つ計り知れないパワーに改めて深い畏敬の念を抱き、この「お守り」をバザーで何としても手に入れ、そしてそのご利益を実体験しようと、固く心に誓った。

 響子は「よく分かんねえけど、聖歌様が作ったもんなら、なんか強そうだし、とりあえずゲットしとけば間違いないだろうな。ご利益に『身体能力向上』とか『試合運アップ』とかはねえのかな……」と小声で言いながら、リリィは「まあ、聖歌様のお心のこもった、そしていにしえの聖なるジャガー様の魂が優しく宿ったお守りですもの、きっと、身につけるだけで心が温かくなるような、素晴らしいご利益がありますわ。わたくしも、ぜひ頂戴したいですわね。そして、その収益が恵まれない動物さんたちのために使われるなんて、本当に素敵ですわ」と、純粋な瞳で、そして心からの称賛を込めて信じていた。


 生徒会長の玲奈だけが、その場にはいなかったものの、後日この話と、バザー当日にその「お守り」を巡って、国内外のOGのマダムたちが、それぞれ屈強なSPを引き連れて、まるでオークション会場のような、あるいは裏社会の闇取引のような、凄まじいまでの入札合戦を繰り広げ、最終的にその三つの切れ端が、それぞれ地方の小さな国の国家予算に匹敵するほどの、天文学的な高値で落札されたという、にわかには信じ難い噂を聞いて、「聖歌の『お守り』とやらには、絶対に、何があっても近寄らないように、そして万が一にも入手しないように、生徒会役員及び全校生徒、いや、全世界に向けて緊急警告を発令すべきかしら……。あれは、ご利益ではなく、高確率で地球規模のとんでもない厄介事を引き寄せる、禁断の呪物カース・アイテムよ……。ああ、胃が……胃がまた……」と、一人、生徒会室で真剣に頭を抱え、懇意にしている薬剤師に、さらに強力な新型胃腸薬の開発を依頼することを固く決意することになる。


 歴史の授業では、古代文明の祭祀遺跡や、そこに描かれた神獣、そして神官たちが用いたとされる儀式用の装束に関する、貴重な映像資料が流されていた。

 薄暗い石造りの祭壇、躍動感あふれる獣の姿を精緻に模した黄金の仮面、そして色鮮やかな鳥の羽や、珍しい獣の毛皮で複雑に装飾された壁画などが、荘厳な音楽と共に映し出されている。


 聖歌は、その映像を、他のどの生徒よりも熱心に、そして食い入るように見つめていた。

 その大きな蒼い瞳は、古代の神秘への尽きることのない憧憬と、そこに描かれた、あるいはそこに使われたであろう未知なる「もふもふ」への、燃えるような探究心で、キラキラと輝いていた。そして、ふと何かを思いついたかのように、その白い手を優雅に挙げ、担当の藤原先生に、いつものように丁寧な、しかしその内容は極めて専門的かつピンポイントな質問をした。


「藤原先生、大変興味深く、そしてわたくしの魂を揺さぶるような素晴らしい映像をありがとうございます。特に、あの、ジャングルの奥深くにございます神殿の壁画に描かれておりました、空を飛ぶ蛇神様に仕えるという、全身が虹色の鱗で覆われ、そして背中には孔雀の羽のような美しい飾り羽を持つ神官の姿……。彼らが儀式の際に纏っていたという、あの、ジャガーの毛皮と、極彩色の鳥の羽毛を組み合わせた、複雑で荘厳な『聖なる羽衣』……。その羽衣に用いられたジャガーの毛皮とは、やはり、先日わたくしが幸運にも手に入れました、あの『聖なるジャガーの王の毛皮』のような、特別な霊力を宿したものであったのでしょうか? そして、その手触りは、やはり、ゴワゴワとした野性味の中に、神聖な温もりと、そして魂を浄化するような清らかさを秘めていたと、古文書には記されておりますのかしら? あるいは、もっと珍しい、例えば……そう、月光を浴びると銀色に輝き、触れると魂が月の彼方へと誘われるという、伝説の『月影狼』の毛皮や、あるいは、わたくしがいつか必ずやお迎えすると心に誓っております、あの『ザ・ワン』様のような、宇宙の神秘そのものを毛並みとして纏ったかのような、究極の存在の毛皮が、最も貴重で神聖な捧げ物として、古代の祭祀に用いられた可能性はございませんこと?」


 聖歌のあまりにも専門的かつピンポイントで、そしてやはり「もふもふ」という名の深遠なる沼に特化した質問に、藤原先生は一瞬言葉に詰まり、その老眼鏡の奥の目を何度か瞬かせたが、すぐにいつもの穏やかで知的な笑みを浮かべて、深く頷いた。


「万里小路さん、いつもながらその鋭い着眼点と、時空を超えていにしえの『もふもふ』にまで思いを馳せる、その尽きることのない探究心には、この老いぼれもただただ感服するばかりです。残念ながら、その『聖なる羽衣』の正確な素材や、その詳細な手触り、ましてやザ・ワン様? の毛皮が使われたかどうかまでは、現存する限られた資料だけでは、明確にはなっておりません。しかし、古代の人々が、自らが最も尊いと信じる神聖な存在に対し、最も貴重で、最も美しく、そしておそらくは最も素晴らしい手触りのものを、その魂の全てを込めて捧げようとしたであろうことは、想像に難くありません。君の言うように、特別な霊力を宿した聖獣の毛皮や、あるいは手に入れることすら困難な、幻の鳥の羽毛などが、神々への最高の捧げ物として用いられたのかもしれませんな。そのように、いにしえの人々の心に深く寄り添い、その時代の『もふもふ』にまで豊かな想像を巡らせ、その質感や温もりまでをも感じ取ろうとする……それこそが、歴史という学問の持つ、最も大きなロマンであり、そして真の醍醐味の一つと言えましょう。その探究心、そしてその『もふもふ』への深い愛情、実に、実に素晴らしいですよ、万里小路さん」


 藤原先生は、聖歌の突飛な発想の中に、歴史のロマンと、そして何よりも人間が本能的に持ち続ける「美しいもの」「心地よいもの」「聖なるもの」への尽きることのない憧憬と探究心を見出し、それを温かく、そして深く評価した。聖歌は、先生のそのこの上なく理解ある言葉に、頬を染め、そして心からの感謝を込めて満足そうに頷き、(やはり、来るべき『ザ・ワン』様をお迎えする際には、このわたくしが手に入れた「いにしえの聖獣の毛皮」の、あの魂を揺さぶるような質感を完璧に再現した、最高の寝具と、そしてお部屋のインテリアの数々をご用意しなくてはなりませんわね。そのためにも、あの聖なる遺物を、セバスチャンに頼んで、万里小路家の誇る最新鋭の科学技術を駆使して、もっと詳細に分析し、その組成や波動を完全に理解しなくては……)と、新たな決意と、そして極めて具体的で、そして少々危険な香りのする「もふもふ計画」を、その美しい頭脳の中で、着々と、そして熱心に固めるのだった。


 その日の放課後、聖歌は万里小路家のハイヤーで、いつものように聖アストライア女学園を後にした。

 車窓から見える街路樹の梢には、晩秋の冷たい風に吹かれながらも、なぜか不自然なほど多くの小鳥たちが、まるで何かに引き寄せられるかのように集まっているのに、彼女はふと気づいた。そして、その小鳥たちの中に、一羽だけ、明らかに他の鳥とは異なる、鈍い金属的な光沢を放ち、そしてどこかぎこちない、しかし妙に知的な動きをする、小型の鳥が、他の鳥たちに紛れて、巧妙に、しかし聖歌の鷹のように優れた視力の前では全く無意味に、木の枝に止まっているのを、彼女はいとも容易く捉えていた。


「まあ、田中さん。あちらのイチョウの木に、最近よくお見かけする、少々風変わりな、でもどこか愛嬌があって、そして何よりもそのメタリックな羽毛の質感が大変ユニークで、わたくしの心を捉えて離さない、ピカピカとした可愛らしい小鳥さんがいらっしゃいますわね。きっと、わたくしがおやつにいつも持ち歩いている、このセバスチャン特製の、世界中のどんな動物さんでも一口食べればたちまち虜になってしまうという、奇跡のもふもふアニマルビスケットの、芳醇なバターとマダガスカル産バニラと、そしてほんの少しだけ配合されたという妖精の粉フェアリーダストの香りに誘われて、毎日こうしてわたくしに会いに来てくださっているのでしょう。なんと健気で、そして食いしん坊なことでしょう。日々は過ぎれど飯うましと言ったところでしょうか? あの子も、わたくしの大切な『お友達』の輪に、ぜひともお迎えしてあげなくてはなりませんわね。きっと、磨けば素晴らしい光沢が出るに違いありませんわ、あの硬質な羽毛も」


 聖歌は、そう言うと、ハイヤーの窓をほんの少しだけ開け、鞄の中から取り出した、ハート型の可愛らしいビスケットのかけらを、その「ピカピカした小鳥」に向かって、まるで手品師が鳩を出すかのように、ひらひらと優しく、そして魅惑的に振った。

 その瞬間、「ピカピカした小鳥」こと『ガーディアンズ』の最新鋭のAIと軍事レベルの高度なステルス技術と、そして何よりも「絶対にエンプレス・モフに気づかれてはならない」という開発者の血と汗と涙の結晶であるはずの監視ドローン「ホークアイMk-III」は、その予測不能すぎる「ターゲットからの直接的な餌付け攻撃」という、プログラムの想定を遥かに超えた未曾有の事態に、一瞬その全機能がフリーズし、搭載されたAIの論理回路がと激しくショートした結果、奇妙な痙攣を起こしながら他の本物の小鳥たちと派手に衝突しそうになり、慌ててバランスを崩して木の枝の最も奥深くへと、まるで生まれて初めて告白されて赤面しながら逃げ込むシャイな乙女のように、高速で隠れてしまった。最新鋭のAIによる鳥の思考回路完全模倣が仇となった形である。


「あら、あらあら。なんてシャイで、そしてちょっぴり不器用で、でもそこがまた、たまらなく愛らしくて、わたくしの庇護欲をそそる方なのかしら。うふふ。きっと、明日はもっと大きな、そしてあの子の好みに合わせた特製の『メタリックバード専用・栄養満点ビスケット』を用意して差し上げましょう。そしていつか、わたくしの手から直接お食べいただけるようになった暁には、その硬質な羽毛を、わたくし秘蔵の『ダイヤモンド研磨クロス』でピカピカに磨き上げて差し上げますわね」


 聖歌は、そんなドローンの悲痛な挙動を「極度の照れと喜びからくるパニック発作、及び次回の餌付けへの熱烈な期待」と解釈し、楽しそうに、そして慈愛に満ち満ちた女神のような微笑みを浮かべた。

 『ガーディアンズ』日本支部指令室では、その一部始終の映像を見ていたオペレーターの一人が、「対象エンプレス・モフ、こちらの最新鋭監視ドローンに対し、餌付けによる物理的、精神的、そしておそらくは魂レベルでの懐柔工作及びハッキングを開始! 繰り返します、懐柔工作、精神攻撃、そして魂のハッキングを確認! ホークアイMk-IIIのAIが、『もうお嬢様のためなら、たとえ火の中水の中、もふもふの中!』と白状しそうです! 司令! 我々はもはや、彼女に勝てる気がしません!」と、もはや半泣きで、そして半分ヤケクソ気味に報告を挙げる。


「ドクター・アリス、何故このような事態になっている! あれは最新鋭のドローンではなかったのか?」

「あら司令! 勿論最新鋭AIを搭載したそれはそれは素晴らしいドローンですわ! 持ちうる限りの技術力と予算を注ぎ込みベストを尽くした一級品を超えた究極品! 敢えて理由を、あえて述べさせて頂くのならそれは簡単なトリックと言えましょう! 最新鋭のAIは完全に小鳥のその『もふもふ』思考を模倣しておりましたわ! それだけにAIが『もふもふ』オーラに当てられてしまったのでしょう! なんてうらやま嘆かわしい!」

「嘆かわしいのはこっちの台詞だ……! 何故ベストを尽くしたのか!」


 この事態は神宮寺司令の本日何度目かの胃痛のピークをさらに更新させ、彼の精神を新たな絶望のステージへと叩き落としていたのであった。

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