遺されたもの

茶村 鈴香

価値あるものなんてない

「何にもないけど」と母は言う


父の遺した

カメラやらワインやら絵画やら


えぇと 私には判らないよ


やっぱり側にいてくれないと

私は首も坐らぬ子どもみたいだ


あなたは落ち着いて

書類に目を通す


お土産代わりの

中トロとイクラとホタテ

手巻きにして3人で食べながら 


あなたは淡々と 

母の話を聞いている


二つしか違わないのに

今日はうんと歳上の従兄弟みたい


書類の山見て 眠くなる私に

「ここと、ここだけ書いて」

判子は押してくれて

とりあえず 何とか終わり


父の秘蔵のワインを

1ダース貰った

パーティでもしなきゃ

飲み切れないくらい


帰りみち 夜の高速は

きれいで目が冴えちゃって

はしゃいで

もう寝なさいと笑われて


明日 あなたは仕事だね


夜景がきれいな湾岸

運転 ありがとうね


週末にはちょっといいお肉でも

買ってこようか


“赤ワインで献杯”しようか


さようなら

やすらかに、とうさん


私はこの人と生きていく

やすらかにね、とうさん


ひとりになった母さんを守って

どうぞ、やすらかに


とうさん



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遺されたもの 茶村 鈴香 @perumi

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