亡国の姫君が近衛騎士と結ばれるまでのお話
伊達やすお
第1話【カローラ姫について】
カローラ・メルト・バイ=ソルフレア
熱く眩い、墜ちること無き太陽の国――ソルフレア王国。
その第三王女が私、カローラ。現在十五歳。
私は、この名前が嫌いだった。華美で、可愛くて、お淑やかで――。
まるで自分のような、お転婆が
マナーの勉強は嫌い。お肉の切り方、フォークの取り方までひとつひとつ決められているなんて、息苦しくて嫌になる。
魔法の授業は嫌い。教科書は古くて埃っぽくてクサいし、おまけに
城の中は嫌い。城内を歩くどの貴族も自分のことしか考えていない。どのように自分を良く見せるか、地位を上げるか。そんな話が耳を塞いだって聞こえてくる。
お父様は好き。滅多に笑顔を見せないけれど、誰よりも優しくて、強くて、何よりも民のことを考えている。どんなに離れた国の方々からも、お父様の悪口を聞いたことが無い。まさに理想の王。
機械は好き。小さい頃に時計の中身を見せてもらった時、詳しい仕組みが気になってその夜は眠れなかった。お父様は『機械は男のロマンだ』なんて言うけれど、女の子にだって好きになる権利はある。と思う。
お城の外は好き。私の部屋の窓から城下町を見下ろすと、楽しそうな民の動きが小さく見て取れる。誰も彼もが助け合って生きている。自分本位な城の中とは、まるで違う。
好きと嫌いが入り混じる狭い世界の中、私はいつしか自分が何なのか分からなくなっていた。
ただ、お城の中は好きよりも嫌いなものの方が多くて、息苦しくて、押し潰されてしまいそうだった。
そんな絶望的な気持ちに負けそうになった日は、必ず同じような夢を見る。
賑やかな街を、大好きな殿方と一緒に歩く夢。その殿方は、いつも私のそばにいてくれて、私が贈る想いと同じだけの愛を返してくれる。ただ顔だけは、どんなに望んでも分からないままだった。
そういった切ない夢を見終わった朝は、決まって胸の中に穴が空いたような気分になる。
あの人は誰? どこにいるの? いつ逢えるの? どうして私と歩いてくれたの?
――こんな子供が思い描くようなおとぎ話、専属のメイドにだって聞かせられたものではないけれど、自由に気ままに街を歩く気分は興味があったから。
だから私は、一度お城の外に出てみることにしたのだ。
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