善人コンテスト

柊介

プロローグ

 その制度は、春とともに始まった。


 誰も説明しなかった。

 けれど、空気が少しずつ変わっていった。


 教室での一言が、いつもより重く響く。

 視線。沈黙。笑顔。


 何かを測る音が、

 しないはずの場所から聞こえてくる気がした。


 朝、ホワイトボードに数字が書かれるようになった。

「善人スコア」――そう呼ばれた。


 成績じゃない。運でもない。

 “正しさ”が、評価される。


 誰かが笑い、誰かが黙る。

 誰かが褒められ、誰かが消える。


 選ばれた者は、どこかへ“送り出される”という。


 いい場所へ行ったのだと、大人たちは言った。

 でも、戻ってきた者はいなかった。


 そのとき、教室の誰もが気づき始めていた。


 ―本当に見られているのは、

 “そこ”じゃないのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

善人コンテスト 柊介 @yuyu9747

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ