『鏡の中のふたり』

@hatarakuATM

プロローグ


──鏡の中には、もうひとりの自分がいる。


誰もが抱える「表の顔」と「裏の顔」。 けれど僕の場合、その裏の顔は衣装とウィッグに身を包み、全くの別人になるという意味で、文字通り“変身”だった。


それが、コスプレ。


学校では地味で目立たず、人付き合いも苦手な僕──神谷悠真(かみや・ゆうま)は、週末になると《レイ=ミラージュ》という名のキャラクターに変身する。


そう名乗るようになって、もう半年。 SNSでもそこそこ名前が知られ始めていて、タグ検索すれば自分の写真もちらほらと出てくる。


今日も参加するのは、いつものコスプレイベント。 主催も運営も慣れた空気で、参加者の流れも分かっている。


受付に向かうと、スタッフの女性が柔らかな笑みで出迎えてくれた。 彼女も参加者と同じように、コスプレ衣装を身につけている。


「ご参加ありがとうございます。登録用紙のご記入をお願いします」


そう言って渡された用紙に、見慣れた情報を記入する。 ふと視線を上げると──スタッフの彼女が、一瞬こちらを見つめたように感じた。 けれどすぐに何事もなかったかのように微笑む。


「確認いたしました。更衣室は奥になりますので、どうぞご利用ください」


「……ありがとうございます」


ほんの短いやり取り。 けれどそのまなざしに、どこか妙な既視感があった。


──まさか、知ってる人……?


いや、気のせいだ。きっと。


更衣室を出て、会場に足を踏み入れる。 そこには、日常とはまるで別世界の景色が広がっていた。


煌びやかな衣装をまとった参加者たち。 シャッター音が絶え間なく響く中、ふと視界に入ったのは──


「……っ」


思わず息を呑むほどの完成度だった。


ふわりと揺れる長い銀髪。 繊細な衣装、吸い込まれそうな瞳。


そのレイヤーは、まるで二次元からそのまま抜け出してきたようだった。


──《みるる。》


SNSで見かけて以来、密かに注目していたレイヤーだ。 儚げな雰囲気と完成度の高さで人気を集める、憧れの存在。


本当に実在していたんだ……。


そんな当たり前のことが、目の前にあるだけで現実味を帯びてくる。 どこかで交わることなんてないと思っていた彼女が、今この同じ空間にいる。


思わず見惚れてしまうその姿に、鼓動が高鳴る。


──名前も顔も知らない、だけど心惹かれる“誰か”。


この出会いが、僕の「もうひとつの顔」を通じて、少しずつ現実と交わっていくなんて──


この時の僕は、まだ想像もしていなかった。


それは、まだ始まったばかりの物語。


鏡の中のふたり。 運命のピースは、静かに──確かに、重なり始めていた。


──────────────────────

この度は読んで頂きありがとうございます。

ここまで生きてきた人生で小説や物語なんて書いたことなんて無かったのですが、ちょっとチャレンジしてみたくなり、掲載させて頂きました。


至らないところや表現が可笑しいところ、下手をすれば辻褄が合わないところも有るかもしれませんが、暖かい目で見ていただければと思います。


作者より。

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