『魔法が使えぬ僕らは、世界の謎を暴く』

月夜 イクト

第1話 開かずの塔と、劣等生

魔法。それはこの世界において、呼吸と同じくらい当たり前の力だった。

生まれ落ちた瞬間に授かる“魔力量”により、人生の価値すら決まるこの国で、少年は――奇跡的に、ただ一人、魔力を持たなかった。


「ユウリ・クレイン。君の魔力測定結果は、ゼロだ」


名門・星導魔法学園の入学選抜試験、魔力測定室での宣告。

試験官の男は、ため息を吐きながら言葉を続けた。


「この結果であっても、筆記と面接の成績からして、入学は許可される……が。学園生活は、厳しいものになるだろう」


ユウリは無言で頷いた。表情は静かだったが、内心では震える声を押し殺していた。

――やっぱり、俺は“普通じゃない”。


それでも、彼は魔法学園に入ることを選んだ。

理由は一つ。

この学園に、自分の過去の手がかりがあると信じていたからだ。


五年前。家族とともに旅をしていたユウリは、突如“記憶”を失った。

両親の顔も名前も、どこで何をしていたのかも。すべてが、まるで霧の中。


目覚めたとき、自分の周囲には瓦礫と、崩れ落ちた黒い塔。そして一冊の古びた本だけがあった。


その本の背表紙には、こう書かれていた。


『星導魔法学園・第七塔封印記録』


だが――現在、第七塔は立入禁止。

「存在しないもの」として、記録からも抹消されているという。


(だったら、俺がこの手で暴いてやる。……この世界の、そして自分の謎を)


だから彼は、魔法が使えなくてもここに来た。

そうして迎えた入学初日。彼の前に現れたのは、一人の先輩だった。


「あなたが、ユウリ・クレイン君ね。……興味あるわ」


まるで春風のような声。銀の髪に、澄んだ瞳。

名門アルフォード家の令嬢であり、“星導の才女”と称される少女――セリア・アルフォード。


その出会いは、偶然に見せかけた運命だった。

魔法を使えぬ少年と、魔法の申し子。

対極にいるふたりが、やがてこの世界の真実に辿り着くことになるとは――


この時、まだ誰も知らない。

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