2分間の殺意
アスクラ
裏路地
両手で首を締めあげる。指の一本一本は皮膚に深く食い込み、隙間から赤の透ける肉が盛り上がってくる。ゴキュッ、と生々しく鳴る嚥下を抑え込むように俺は指先に力を込めた。男は目を見開き、震える両手で俺の手首を鷲掴む。額には汗が垂れ、何度も口を開いては吸えぬ息を吸いこもうとする。手汗がにじむ。腕が熱くなってきた。あともう少し、もう少しだ。俺は全身の力を込めてギリギリと握りしめてゆく。男の目はすでに焦点が定まらなくなってきていた。半開きになった口から涎が垂れる。掴んでいた両手は段々と弱まって、痙攣しながらすり落ちていく。力んでいた俺の両腕に、段々と重みがのしかかってきた。まだ安心はできない。一瞬よろめきつつも、俺は踏ん張りをきかせて耐える。男の全身から力が抜けるまで掴んだ首は離さなかった。
「…やったか?」小さくそう呟く。少しずつ力を抜くと、男は掌をすり抜けてバタンと地面に倒れこんでしまった。ゆるんだ口の端には泡がこびりつき、舌がでろりとまろび出ている。先ほどまであんなに苦しみもがいていたものが、今ではピクリとも動かず、ただの肉塊と化している。…ああ、ついにやった。いや、やってしまったのか。「…仕方ねぇだろ」俺は大きく息を吐く。ここまでやれば、もう充分だろう。次は二度と奪わせない。全身が鉛のように重く、腕にたまっていた熱はいつの間にか疲労に変わっていた。指先がかすかに震える。これはおそらく筋肉の痙攣だ。ああ、そうさ。ちょっと力を入れすぎてしまっただけだ。動かない足を無理やり動かす。視界の端に一瞬それが映る。が、目をとめることもなく。その場に背を向けてゆっくりと歩き出す。特にあてもないが、もうそこにいる必要もなかった。「ハッ…」喉から乾いた笑みが出る。そう、ただ淡々と、生き抜くだけ。別に難しいことじゃない。プツリと、胸の奥で何かが切れたような気がした。人気のない裏路地は薄暗く、俺の体は芯まで冷えていた。
2分間の殺意 アスクラ @askla_08
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