第2話

 卒業式、キヨは来なかった。風邪だと思ってた。

 卒業式に風邪とか、運悪すぎるだろと、ヘラヘラ軽いことを考えて家に着けば、ポストに一通の手紙が挟まっていた。

 ――宛先はオレで、送り主はキヨだった。

 嫌な予感が全身を駆け抜けて、オレはその場で手紙をこじ開けた。


『ちだっちへ

 ごめん、本当に、ごめん。僕、ちだっちとお店開けないかも。本当に、ごめんなさい。ちだっちのことが嫌いっていうわけじゃない。ちだっちは僕の大切な親友だよ、それは変わらない。でも、これだけは、言えない。ごめん。

 ちだっちはちだっちでお店を開いて。追いつけたら、僕もそこに加わりたい。

 別に不安じゃないよ。夢が叶う道のりが少し増えただけ、大丈夫。僕の夢は変わらないから。

 だから、ごめん、ちだっち。しばらく会えそうにないや。

 ちだっちのこと、応援してる。商売上手なちだっちならできるよ、頑張って。

 また会える日まで

                                 清彦より』


「は……」

 無意識に、声が出た。

 ちょっと待ってくれよ、キヨ。なんで急にいなくなったりなんか、するんだよ……。

「嘘だろ……」

「音羽ー! ちょっと来てー!」

 母ちゃんに呼ばれて、手紙から無理やり目を離す。

「なんだよー!」

「いいからー!」

 手紙を持ってリビングに直行すれば、嬉しそうな顔をした母ちゃんと父ちゃんがいた。

「なんだよ」

「いいからいいから。座って?」

「わかったけど……」

 座ったところで、机の上に置いてある紙に見が行く。

「それ……」

「そうそう! お店、見つかったわよ!」

「いいところだろう? 二階を住居として使えるんだぜ!」

「あー……うん」

 二人の笑顔が眩しくて、オレは目をそらす。

「音羽?」

「なにか、問題でもあるのか? いい話だろ?」

「そう、なんだけど」

 キヨが。

「どうかした?」

「もしかして……清彦くんのこと? もうっ、それは心配することないわよ。私から清彦くんの家に行って――」

「無駄だよ」

 自分でも驚くほどに低い声が出た。

「音羽?」

「無駄だよ、そんなことッ!」

 バンッ! と、手に持っていた手紙を机に叩きつける。

「無駄なんだよ、キヨはもういない!」

「な、何言ってるんだ……?」

「手紙? 誰からの?」

「キヨからのだ。読めば……、読めばわかる」

 オレがそういうと、父ちゃんは手紙を手に取り、母ちゃんと読み始めた。

 みるみる、二人の顔色が変わっていくのがわかる。オレは、息を吐く。

「今日、キヨは卒業式に来なかった」

 たぶん、そういうことだと思う。と、言葉を付け足す。

 オレの口から自然に、ため息が出た。

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