サラリーマンと月夜と蛍

ろくろわ

蛍は夜に輝く

 都心から離れた郊外に向かう最終電車の中。

 同じ電車に乗っているのは、秋南あきみなみと同じサラリーマンが多かった。皆、くたびれた顔をしている様に見えたのは、秋南自身と重なって見えたからかもしれない。

「つらいねぇ~。サラリーマンは」

 秋南がボソッと自虐的に呟いたのは、そんなくたびれたサラリーマンを見たからだけではなかった。

「しかし良くできているよなぁ。サラリーマン川柳」

 秋南は手元のスマホの画面をスクロールしながら、次の川柳に意識を向ける。

 秋南の見ているサラリーマン川柳は、どれも皮肉的な内容が多かった。

 働けど楽にならない。家でも居場所がない。楽しみの煙草は煙たがられ、隅に追いやられる小さな光は、蛍みたいだと揶揄される。

 そんな川柳を読みながら、最終電車に揺られるサラリーマンズをみていると、明るく元気に家路につくようには見えず、やっぱりくたびれているように見えたのだ。


 電車が最寄りの駅に着いた。

 こんな田舎の駅で降りるのは、秋南と数人のサラリーマン。皆、前を見ず手元のスマホを見ながら改札を出ていった。

 ふと、秋南は思った。

 街灯も無い田舎道。月の光が淡く照らすサラリーマン。手元のスマホの明かりだけが方々ほうぼうに散っていく姿は、綺麗な水辺を求め彷徨う蛍のようだと。


 家路着く

 月夜の蛍は

 サラリーマン


 秋南はハハッと一人、渇いた笑い声をあげた。ちっとも上手く詠めやしない。

 秋南は指を折りながら家路を急いだ。

 他のサラリーマンと同じように、片手はスマホを握りしめたままで。



 了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サラリーマンと月夜と蛍 ろくろわ @sakiyomiroku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ