設定:ダンジョン内制圧計画(第1フェーズ)検証結果報告書
報告日時: 20XX年X月X日
発信元: 異次元資源開発管理庁研究所 戦略研究部
件名: ダンジョンにおける外部からの物量投入による魔物制圧計画(第1フェーズ)の検証報告
1. 計画概要
本計画は、ダンジョンと地上との物理的接続性が維持されるという、新たな観測結果に基づき立案された。
ダンジョンの境界が物質の連続性を完全に遮断しないという特性を利用し、外部から大量の物資を投入することで、ダンジョン内部の魔物群を効率的に無力化・排除する可能性を検証することを目的としている。
なお、ロケットランチャー等の爆発物や火器を用いた攻撃が、魔力を持たない物理的な攻撃であるため、魔物に対して無効であることは既に既知の事実である。
今回の検証では、それらの直接的な攻撃手段ではなく、環境を操作することで間接的に魔物を制圧する可能性を探った。
本フェーズでは以下の4つの手法を試行した。
1.化学兵器(毒ガス)の投入による制圧
2.可燃性ガス充満と着火による制圧
3.大量の水の投入による水没・流出作戦
4.土砂による埋め立て作戦
2. 検証結果
2-1.化学兵器(毒ガス)投入
実施内容:
ダンジョン低層の広域通路(ゴブリン、コボルドなど物理系魔物が主生息域)に、各種神経剤、びらん剤、窒息剤を投入した。
期待効果:
地球上の生物と同様に、魔物も化学兵器の毒性により麻痺、呼吸困難、組織破壊などを引き起こし、広範囲にわたる魔物の無力化・駆除が期待された。
結果:失敗
投入された化学兵器は、魔物に対して一切の効果を示さなかった。高精度のドローンカメラによる観察結果から、魔物がガスを吸入しても、痙攣や麻痺、呼吸困難といった中毒症状は全く見られなかった。
理論的推測ではあるが、地球の生物にとっては致死的な毒性を持つ化学物質であっても、魔物の生体システムにとっては無害な代謝物へと変換されるか、あるいは単に無視されるものと考えられる。
また、この特性はダンジョン内の未知の環境毒素に適応する過程で獲得されたという可能性も指摘された。
2-2.検証結果:可燃性ガス充満と着火
実施内容:
ダンジョン低層の広域通路(実験区画として隔離)に、高純度メタンガスを空気との混合比率を調整して充満させ、その後、遠隔操作により着火した。
期待効果:
①酸欠による無力化: ガス充満により酸素濃度を低下させ、魔物を酸欠状態に追い込むことで無力化する。これは地上の生物同様に魔物の首を絞めて窒息させることによって活動停止させることができることから、魔物も酸素を必要とすると考えられるためである。
②ダンジョン内の温度上昇による無力化:ダンジョン内の温度を上昇させることにより、爆炎・爆風といった瞬間的な破壊ではなく、温度上昇という継続的な効果によって無力化する。
①結果:失敗
魔物の特異な呼吸: 酸素濃度が低下しても魔物の活動は停止せず、むしろある種の活性化が見られた。
これは、魔物自身が、二酸化炭素を直接エネルギー源とし、その代謝過程で酸素を排出する「逆呼吸」とも呼べる特殊な生理機能を持つためと推測される。
つまり、可燃性ガスを充満させ、酸素濃度が低下し、二酸化炭素濃度が上昇した環境は、魔物にとって生存に有利な環境となった可能性すらある。
②結果:失敗
爆炎発生後、ダンジョン内は一時的に1,000℃を超えたが、発汗するなどの変化程度しか見られなかった。推測ではあるが、温度上昇はあくまで分子運動に起因するエネルギーであり、魔力を持たない攻撃と同様に、魔物が魔力によって保護されている限り、効果が及ばないものと考えられる。
備考:環境の自己回復
爆発後の区画内は一時的に高温となり酸素濃度も低下したが、ダンジョン内部の温度は速やかに元の水準に戻り、酸素濃度も急速に回復した。
これは、ダンジョンが非常に効率的に酸素を再生していることに加え、熱を吸収・拡散する未知の機能を持つことによるもので、多分にダンジョンの特異な環境特性によるものと推測される。
2-3. 検証結果:大量の水の投入
実施内容: ダンジョン低層通路の勾配を利用して、約██トンもの水を連続██時間にわたって投入した。
期待効果: 通路を水没させ、魔物を溺死させるか、あるいは水流によって深層へと流し出し、活動を阻害する。
結果:失敗
ダンジョンの即時吸水性: 大量の水をダンジョン内部に投入したが、水は投入直後からまるで巨大なスポンジが水を吸い込むかのように地面に急速に吸収されていった。水の流れはほとんど発生せず、数秒後には投入した水が完全に消失した。
吸水性メカニズムの考察: この吸水性は外見上の地質からは地上では考えられないため、ダンジョンを構成する未知の地質、あるいは魔力など何らかの未知の作用である可能性が高い。
2-4. 検証結果:土砂による埋め立て作戦
実施内容: ダンジョン低層の広域通路(実験区画として隔離)に、約██㎥もの大量の土砂を投入し、通路を完全に埋め立てることを試みた。
期待効果: 通路を物理的に閉鎖し、魔物の移動経路を遮断する。これにより、特定の区画への封じ込めや、活動領域の制限、あるいは土砂に埋もれさせることで魔物を窒息・圧殺する。
結果:失敗
土砂の「同化」現象: 投入された土砂は、ダンジョン内部の壁や床と極めて短時間で「同化」し、ダンジョン構造の一部となってしまった。具体的には、土砂がダンジョン本来の地質と同じような硬度と質感を持ち始め、投入前の通路がまるで最初から埋め立てられていたかのように変化した。また、同化後は波が引くかのように元の通路幅へと数分とかからず変化した。
「ダンジョンの復元力」の再評価:これまでは設置された人工物が消えるなどといったことがないため、創作物などにみられる「ダンジョンの復元力」は存在しないものと考えられていた。
しかし、今回の結果は、ダンジョンが外部から持ち込まれた土砂のような物質を「自身の構造の一部」として取り込み、変化させる、未知の、より高次元の復元・再構築能力を持つ可能性を強く示唆している。
3. 結論と今後の課題
今回の検証により、ダンジョンの地上との物理的接続性があるにも関わらず、既存の地球由来の物量投入(化学兵器、可燃性ガス、大量の水、土砂)によるダンジョン内魔物の広範囲な制圧は極めて困難であることが明確になった。
今後は、これらのダンジョンと魔物の特異な性質を深く研究し、それらに対抗するための新たな兵器体系や戦略を開発する必要がある。
安易な物量投入ではなく、ダンジョンの原理を理解し、その特性を逆手に取るような、より緻密で科学的なアプローチが求められる。
以上、報告を終了する。
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