後日譚 青空の下で、もう一度
学園の桜は、今年も静かに咲いていた。まるで何事もなかったかのように、風に揺れている。
東条 凛は、図書室の前で足を止めた。
中では、一年生たちが新聞部の見学に来ている。机の奥で、風間 律が指を動かしながらレイアウトを調整していた。
「ずいぶん、板についてきたね」
凛が声をかけると、律は振り向き、照れくさそうに笑った。
「そっちこそ。どう? 進学先、決まったんだろ?」
「うん。教育学部。 “言葉が人を変える”って、教えてくれた人がいたから」
凛は鞄から一冊の冊子を取り出す。
表紙にはこう書かれていた。
『告発ノートが教えてくれたこと』――特別編集号
「透先輩のノート、文章化して冊子にしたの。誰かの正義じゃなくて、“誰かを守る選択”の話として」
律がそれを受け取り、じっと見つめた。
「これ、配っていい?」
「もちろん。“信じるってこと”は、伝えていきたいから」
そのとき、部室のドアが開いて、一年生の女子がひょっこり顔を出した。
「すみませーん! 新聞部の人、いますかー?」
凛が笑って手を挙げた。
「はい。ここの“元部長”です」
「わたし、文章書くの好きなんです!だけど、ちょっとだけ、人に見せるの怖くて……」
凛は優しく言った。
「大丈夫。うまく書けなくても、“伝えたい”って気持ちがあれば。ここは、そういう場所だから」
窓の外で、風が吹いた。一枚の桜の花びらが、図書室のテーブルに舞い降りる。
誰かの想いは、誰かに受け継がれ、 “ほんとうの言葉”として、また空に飛んでいく。
カモは、もういない。でも――
新しい羽根が、きっと誰かの背中に生えていく。
ウソつきはカモの始まり ー 転校生と生徒会長の学園ミステリ あると @alto-ayame88
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