男だと思い込んでいたフォロワーとオフイベで出会ったら美少女でした
秋乃光
※冒頭からしばらく主人公の自分語りゾーンがあります
俺の名前は
ママにしか明かしていないが、転生者だ。
転生のメジャーどころといえば『ナーロッパ』と
この、桐生天翔としての人生は、なるべく目立たないように、穏やかに過ごしていきたい。
転生前の俺は長きにわたる下積み生活から抜けだしようやく売れ始めていた
各地を巡って観客の前でマジックを披露していたら、ある日、あのベガス行きのチケットを手に入れた。
このビッグチャンスを逃すわけにはいかない。
実力はあるのだから、あとは舞台が用意されたら、超売れっ子になれる。
俺に『飛行機に乗らない』という選択肢はなかった。
もし、空港で、予言者に「墜落しますヨ」と教えられたとしても、俺はその言葉をやっかみだと解釈して、飛行機に乗っていただろう。
精神年齢プラス三十○歳の俺は、天翔のママとパパや、ふたりの親族や友人たちに育てられながら、同い年の赤ん坊たちと歩幅を合わせて成長してきた。
ママの携帯端末を拝借して、俺が巻き込まれた事故について調べる(その後、検索履歴は消したのでバレていない)。
飛行機が墜落して乗客が死亡する事故、ましてや、日本人が犠牲になっている事故なんて滅多に起こらないから、すぐに判明した。
俺の他に、
記事はソイツに関するものばかり、と思いきや、さらに本数が多かったのは、この事故の唯一の生還者に関するものだ。
俺はその生還者――
というか、築山は俺の弟子っていうか、助手のようなポジションの女だった。
俺のおまけとしてベガスに行こうとしていたヤツが生存しているのは、なんだか癪だ。
以降、俺は、唯一の生還者として各種メディアに出演していた築山の行方を追いつつ、天翔くんとして、一つの目標を打ち立てた。
天翔くんのママはふしぎなことに、まったく年を取らない。
天翔くんは先日誕生日を迎えてめでたく二十歳になったのだが、ママは十六だか十七だか、女子高生ぐらいの見た目で止まっている。
パパは順当にプラス二十歳老けているから、幼馴染みだというのに年の差夫婦と間違われがちだ。
このかわいいママを、俺は守りたい。
生まれたての頃は将来的に政治家となってママと結婚できるように法律を変えようと企んでいた。
しかし、いっしょに過ごしているなかで、ママが俺との結婚を望んでいないと理解したので、作戦を変更する。
息子という立場でも、ママは守れるから。
おかげさまで天翔くんはパパの身長を超えて、転生前の俺の身長と同じ184センチメートルにまで伸びた。
自分の携帯端末を買ってもらってからは、自分で調べて、身体を壊さないように注意しながら鍛えていく。
学校の授業は退屈だけれども、こういう勉強は楽しかった。
ママのためという大義名分があったからかもしれない。
やがて俺の肩幅は水泳選手と疑われるほどになり、利き手ではない左手でリンゴを潰し、短距離走では運動部に負けないタイムを叩き出す筋肉を作り上げた。
このがっちりとした体格から、様々な部活動の先輩からお声がかかったり、体験入部をさせられたりしたものだが、俺はママとの時間を大切にしたいので、全部断っている。
客観的に見れば「もったいない」のだろう。
だが、俺は取り戻せない時間があることを知っているので、若者は若者同士でキラキラとしたかけがえのない青春を楽しんでほしい。
さて。
前置きが長くなった。
ここまで話に付き合ってくださった人ならなんとなく察してくれると思いたいが、俺はいまだにママのことが大好きだ。
天翔くんはママ譲りの美形に俺の努力が組み合わさって、転生前の俺よりもモテていたけれども、俺にはママ以上に守りたい人がいないからと、告白を断ってきた。
負け惜しみに「マザコン!」と吐き捨ててくる女はいた。
天翔くんとママの関係性を踏まえると『マザコン』と捉えられても仕方ないので、否定しない。
転生するとある程度肉体の年齢に精神の年齢が引っ張られるのか、俺は転生前にはちっとも触らなかった『ゲーム』にハマった。
転生前の俺はそれこそ一意専心、奇術師として身を立てて名を揚げるべく修行の日々を送っていたわけで、時間と金が無駄に消費されるような娯楽は避けている。
ハマりはじめるとおそろしいもので、俺は課金のためにスポーツジムでバイトを始めた。
ママとの時間が取れなくなるよりも『ゲーム』が優先されるようになって、俺自身もびっくりだ。
そのママは「バイトかあ。社会経験になるねえ」と許可してくれている。
社会経験はプラス三十○歳の部分で積んでいるのだが、バイト仲間の話や常連客の話をママが嬉しそうに聞いてくれるから、バイトを始めてよかった。
そして、その『ゲーム』の『オフラインイベント』が、今日、秋葉原で開催される。
「相変わらず人が多いこって」
電車を乗り換えて、乗り換えて、俺は秋葉原に到着した。
日曜日の混雑に、ぼやいてしまう。
電気街口の改札で『ゲーム』で知り合った友人と待ち合わせだ。
本当は車で行きたかったのに、そいつが『酒は?』と言うから、やめた。
俺が飲酒運転で逮捕されたらママが悲しむ。
「んーと……」
ダイレクトメッセージで『ついた』と送った。
さっきの乗り換えの時に『なう』というメッセージに電気街口の写真が添えられていたから、もう着いているだろう。
待ち合わせ時間よりだいぶ早い。
『黒いパーカー』
黒いパーカーを探せ。
きょろきょろと見渡して、それっぽいのは見つけた。
『ガーネットは?』
ガーネットは俺の転生前の芸名で、今はハンドルネームとして使っている。
誰かが気付いてくれないかなという期待を込めてつけたが、あいにく誰からも「
動画投稿サイトに動画でもあげようか。
『しましまのポロシャツ』
俺の特徴を送れば、それっぽい、と目星をつけた女の子と目が合った。
インナーカラーに赤を入れているストレートの黒髪に、黒いマスク、耳と指にシルバーアクセサリーと、黒いオーバーサイズのパーカーに、黒い肩掛けのポシェットと、ハイカットの黒いブーツ。
「あ……」
酒がどうのと言っていたから成人済みのはずで、前に生年月日をぶっちゃけたときには天翔くんと同い年の二十歳だったが、本当にそうなのか?
ボーイッシュな格好の小学生、の間違いじゃないか?
まあ、身近に天翔くんのママの例があるので、見た目と年齢は必ずしも合致しない、というのはわかっている、つもり。
「あっ、え、っと」
女の子は耳からワイヤレスイヤホンを取り外して、ポシェットに入れる。
携帯端末を操作して、画面を見せてきた。
「きゃ、伽羅です。えっと、ガーネットさん、ですか?」
アカウントのプロフィール画面だ。
男のアバターを使用しているから、俺はてっきり男性だと思い込んでいた。
チャットでの口調やメッセージのやりとりからも、男だとばかり。
こうして現実で喋っていると、女の子。
「そうだけど」
「え。あの、あのあの、同い年、ですよね?」
「二十歳二十歳。免許証見せる?」
「い、いいや! 大丈夫ですっ!」
老けて見えてしまうのはわかる。
転生前からカウントしていいのなら、俺はもう五十過ぎのいいおっさんだ。
「むしろ俺が、伽羅のを見せてもらいたいぐらい」
「しっ! 失礼なっ! わたしはこれでも社会人をやっているんですっ! 普段はオフィスレディーらしく、スーツを着こなしているんですからねっ!」
「社会人?」
伽羅は、言い終わってから、あっ、しまった、という顔をしている。
高卒で働いているとしたら、社会人でもおかしくはない。
今のは俺の反応がおかしかった。
「し、しかしっ、ガーネットさんのこと、わたし、女の子だと思ってて」
「そうなの?」
「ネット上で一人称を俺にしているタイプかと」
そう見えるかな……?
過去の発言をさかのぼってみた。
女のフリをしているつもりは一切ない。
「ママとデートって」
「ああ。俺はママとよく出かけるし、出かけたときの記録を残す、日記感覚」
「あ、あー……そうなんですね……」
「というか、同い年なんだし、いつも通りタメ口でいこうよ。それに、物販がそろそろ始まるから、会場に行かないと」
「あっ、はい、わか……わかった」
男だと思い込んでいたフォロワーとオフイベで出会ったら美少女でした 秋乃光 @EM_Akino
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