名探偵がやって来た・後編
外界と連絡が取れない中、次にカップルの男、伊藤が殺され、そして探偵も犯人の手に掛かって崖下の荒れ狂う海へと転落していった。
犯人の顔は確認できなかったが、あの特徴的な鹿撃ち帽のシルエットは間違いない、突き落とされたのは探偵だ。
たまたまその現場を目撃してしまった時、私はその場で
これで最大の危機は去った
道路も明日には復旧する、後はそれまで自分の身を守るだけだ。
そう思っていたのだが…………
私は今、私の宿泊している部屋の中で、犯人が隠し持っていたハンマーで頭を殴られ床にへたり込んでいた。
「まさか、あんたに犯行を見られていたなんてな」
そう言うと犯人は、私の財布を自分のポケットから取り出した。
まさかあの
油断しているつもりはなかった、しかしまさか『××××』が犯人とは思わなかった。
んっ、『××××』?
おかしい、さっきまで話をしていた『××××』の名前が浮かんでこない。
「あんたに恨みはないが、死んでもらう」
恨みがない?
今回の連続殺人事件は、私も関わった犯罪が原因で起こったものではないのか?
「ま、まってくれ『××××』さん」
くそっ、やっぱり名前が出てこない。
『××××』が、手にした凶器を私に向かって振り下ろそうとした瞬間。
「そこまでです」
大きくドアが開き、探偵と警官隊が私の部屋に入ってきた。
「おまえ、生……」
「おまえ生きていたのか!!!」
『××××』が発した言葉を掻き消すくらい大きな声で、私は探偵に向かって叫んでいた。
探偵はしかし私を無視して、犯人に話しかけ続ける。
「残念でしたね、山田医師。いや、
なんだそれ?初めて聞いたぞ、そんな異名。
初登場の連続殺人犯の異名に、私だけでなく当の山田でさえリアクションできずに困っていた。
あれっ、山田医師?
そうだ山田だ!
私が先程まで別れの挨拶をしていたのは、山田だった。
探偵側の人間だと思って、完全に油断していた。
しかしなぜ突然、その名前を思い出す事も、言葉にする事も出来なくなったんだ?
探偵が真犯人を名指しするまで、周りの人間は真犯人である事を認識して、言葉にする事も出来なくなるのか?
無関係の人間の脳みそにまで直接干渉する探偵の能力、もはや人智を超えているとしか思えない。
「あなたは私を、荒波の海に突き落とした事で死んだと思っていたようですが、私は幼稚園の頃に、少々スイミングスクールに通っていた事がありましてね」
イヤ無理だろ!!!
あそこの海は、地元の漁師でさえも近づかないくらいだって、オーナーに聞いたぞ。
助かるどころか死体も上がらない、オリンピアンのメダリストだって溺れ死ぬような場所だぞ。
「くっ、まさか水泳を習っていたなんて。あんたには
…………どうやったら死ぬの、
「あなたのお嬢さんが三年前に、中川と伊藤が起こした強盗事件によって死亡した事は既にわかっています。あなたにこれ以上罪を犯させたくない。大人しく凶器を捨ててください」
探偵がそう言うと、山田は手にしていたハンマーを床に落とし、うなだれるように膝をついた。
「私は、やつらが許せなかった」
探偵の推理と山田の告白が始まっていたが、私は今回の事件に無関係な事がわかり、探偵の恐怖から解放された安堵感から、推理と
事件が解決して、山田が警察に連れられていくと、迎えのバスがやっと到着した。
私が旅行鞄を手にして山荘を出ようとすると、探偵に声を掛けられた。
「今回は大変でしたね」
「いえいえ、あなたは命の恩人です。ありがとうございます」
事件に無関係だと証明され、私は探偵と安心して会話が出来るようになった。
「そうだ、ウチのジョシュア君があなたの会社のゲームの大ファンだそうで、あなたの事を話すと、ぜひ会社を見学したいと頼んでくれと言われまして」
………………はっ?
何を言ってるんだこいつ?
しかし探偵の目の鋭さには有無を言わせぬ迫力があり、私は催眠術に掛かったように頷く事しか出来なかった。
私は探偵と別れてバスに乗り込むと、秘書に電話を掛ける。
「私は今日で会社を辞める。私からの最後の指示だ、この場所から最も近い空港から出る、最も遠い国へのチケットをとってくれ」
私はそれだけ言うと、騒ぐ秘書を無視して電話を切った。
そうだ遠くへ行こう。
探偵の来ない、遠くの
名探偵シリーズ 明日和 鰊 @riosuto32
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