第2話 地獄の壁新聞
「おじゃましまーす」
「真理愛、その人は…?」
「うちの学年で成績が2位の月影流架くん。
数学は私より得意だから、一緒に勉強する」
「そ、そうなのね…
ま、まあ、真理愛がお友達連れてくるのも珍しいもんねえ、ささっ、どうぞ上がって…」
「さすが、いきなり来ても綺麗にしてんなあ。
いい香りするし。ほんとファブリーズぶっかけといて良かった。
ところで数学どこがわからないの?」
「えっと、これ」
「あー、これはXをここに代入して…
てか、教科書書き込みまくりですげー!
俺の落書きだらけなのに、ほら」
カーチャン星人
「ぶっ!
ま、まあでも、こういうので発散しないと、本当にやってられないよね…」
次の日
「さ、上がれよ」
月影くんの部屋はカーテンが真っ黒。
そして壁には、
臥薪嘗胆
切磋琢磨
日進月歩
などと毛筆で書き殴られた紙が貼ってあった。
それはいいけど…
「す、すごく墨が垂れてる文字だね…
なんかちょっとホラーっぽいかも…」
「わざとだよ。
母ちゃんがこういうの貼って自分を鼓舞しろってうるせえから、せめてもの反抗心で、自分で書くって言ってわざと怖い風にしてやった」
「なるほどね…
じゃあ、芸術選択、書道?」
「や、音楽。
うちはケチでしょ、だから中学までの書道セットも取ってあっただけ。
…てことは、朝光は残りの美術か」
「そうだよ。
…ああそうか、1組と2組は芸術選択は合同授業だもんね、同じなら会ってるはずだもんね」
「あ、そこの押し入れは絶対開けるなよ。
そういうケチケチ取ってあるもん、とりあえず昨日全部そこに詰め込んだからさ。
開けたら土砂崩れ起こして怪我すっぞ」
「わかった」
本当に私が来るから整理整頓してくれたんだ…
なんか嬉しいな。
「しかし、この標語の中で切磋琢磨だけは、具体的な競争相手がいたためしがないし、ねーよって思ってたけど…
まさかこんなことになるとはな」
「ほんとにね」
「あっ、わり、制服タバコくせーわ。
匂いが染み付いちゃってんだな」
「ちょっ、目の前で着替えないでっ」
「上だけなんだから別にいいだろ」
た、たしかにそうなんだけど…
なんでこんなに気になるの…?
「ほ、細すぎない?!」
「着替えないでーとか言っておいて、なに見てんだよ」
「い、いやまあその…
もしかして食べ物までケチられてるの?」
「いや、これは俺の意思。
寧ろ親は、健康的な方が受験に有利だって言って、普通体型にさせようとしてくる」
「反発してハンガーストライキ?!」
「いや、痩せてる方がかっこいいじゃん」
「うーん、それはどうかなあ?
でもまあ、虐待じゃなくてよかった…」
「あー、そうか、家庭がやべー奴の発育具合が気になるから見てたのか」
「そ、そう、それそれ!」
「ちぇっ、まったくほんっと御奉行様だな」
次の日登校すると、掲示板にやたら人が群がっていた。
「えっ、壁新聞? …わっ!」
『特大スクープ!
堕ちた風紀委員長•朝光真理愛、
喫煙ヤンキー月影流架と熱愛発覚!』
見ると、私が月影くんの家に上がろうとしている写真がど真ん中に貼ってある。
「ちょ…ちょっと、誰がこんなの作ったのよ、盗撮じゃない」
「盗撮なんて、裏ではこんな奴とイチャイチャしてるくせに風紀委員長だからってデカい顔してるあんたに比べたら、たいした罪じゃありませーん」
「日下…
あんたがクラス1だらしないから注意してるのを逆恨みしてるだけじゃない」
「俺はタバコは吸ってないから月影よりはマシでーす、まずは彼氏の注意してくださーい」
「月影くんはタバコをやめたから!」
「おー、そんなに庇っちゃうほど愛しちゃってんのぉ? アツーい!」
周りの野次馬もヒューヒューと囃し立てていたが、
次の瞬間、ふいに空気が変わった。
「ったく、馬鹿なもん張り出しやがって」
月影くんが鞄を肩に担いで立っていた。
彼が気怠そうに壁新聞の方に歩みを進めると、その威圧感に気圧され、野次馬達がモーゼの十戒のように道を開けた。
彼は悠々と画鋲を外し、壁新聞を丁寧に鞄の中にしまった。
意外だ。
もっと勢いよく引きちぎるかと思ってたのに。
「あんたが書いたのか」
「お、おう、そうだよ?」
「朝光が俺みたいな奴を選ぶって、本当に思うの?」
「思うよ?
だって、お前みたいなヤンキーって、女をたらしこむのだけは上手いじゃーん」
「そらどーも。男冥利に尽きますわ。
屑のあんたにはできない芸当だね。
でも、女をたらし込むの、だけ…?
あんた、俺の名前は知ってるのに、成績順位は覚えてないの?」
「名前なんて今知ったんだよ、お前の情報は写真を見た2組の奴らに聞いたんだから
…って、せ、成績…? マジで?」
「ああそうか、総合も科目別も10位までしか載ってないから、あんたやその2組の奴のような馬鹿どもには縁がないから、見る必要もないんですねえ」
「なんだとコラァ!」
「まあ、ここまで言えばもうわかるでしょ、勉強会だよ」
「いやいやあ、男女二人っきりで勉強会だなんてぇ」
「疑うならあんたも一緒にやる?
一部屋に3人はきついから、図書館とかでもいいぜ。
何の役にも立たなかったらクビにするけど」
「い、いえ…試されるまでもないです…
すみませーん!」
ピューッ!
真理愛の家
「今日はうちのクラスのバカがごめんね」
「いいよ、ある意味ありがたかったかもな。
これでこれからは何の気兼ねもなく勉強会できるし」
「ううん…
ありがたかったのは私…
俺がこんなダサい御奉行様と付き合うかあ!じゃなくて、
朝光が俺みたいな奴を選ぶって、本当に思うの?
って言ってくれて…」
「いやぁ、まあ、そりゃそうでしょ。
…ところでさ、もうすぐ体育祭じゃん。
俺、体育委員だからってみんなが嫌がるリレーのアンカーにされて、最悪なんだよね」
「ええっ!
うちのクラス、アンカー日下なんだけど」
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